星降る夜に、あのラブソングを。


 当然だが、授業は基本的に自習。
 分からないところは、放課後に聞きに行く毎日だ。

 自慢では無いけれど、実は勉強だけはできる。
 先月、高校で初めての中間考査があったのだが、学年順位は1位だった。

 だからこそかもしれない。

 私が『サクラ学級』に通うことを認め、担任まで付けて高待遇をしてくれている理由。


「……」


 黙々と解き続ける。
 この時間、2組は数学だ。

 だから私も同じように数学の問題集を解く。

 ……とはいえ、初見ではなかなか上手くはいかないけれど。

 教科書と問題集の睨めっこ。
 それでも分からなかったら、先生の元に向かう。


 そんな日々だ。


「……」


 黒板の隅っこに書かれた文字に目を向ける。


“人を愛し、人に愛され
私は人として成長していく
心を許した相手に寄り添う喜び
寄り添われる愛おしさを感じて

全てを体で感じて生きてゆきたい
満たされた感情で溢れる愛
あなたを想い伝える、愛の言葉
愛おしくて、苦しくて、どうしようもなくなった時

何よりも大切なあなたを
壊れないように両腕で抱き締める
その瞬間に感じる、深い絆
あなたと共に歩む、未来を信じて”


 これは、武内先生が書いた物だ。今話題のアーティストが歌っている曲の歌詞らしい。けれど、そんな流行りには疎い私。どんな曲なのか、誰が歌っているのか。そもそも、曲名も。何もかも知らない。

 武内先生は、何故この歌詞を黒板に書いたのか。それすら私には分からない。


「失礼します。柊木さん、こんにちは」
「……あ、早川先生。こんにちは」


 数学教師の早川(はやかわ)裕哉(ゆうや)先生。1年生の数学担当だ。

 早川先生と英語担当の内山(うちやま)先生の2人だけは、授業が終わるとここまで『今日のまとめ』を持って来てくれる。それ以外の科目の先生は、みんな武内先生に預けるのだ。

「今日は1次不等式をしました。2組は理解力のある生徒が多いようで、99.5%の人たちが解けておりました。柊木さんはいかがですか?」
「教科書を読みながら……どうにか」
「さすが柊木さんです。ではこちらの『今日のまとめ』を参考に、またお勉強を頑張って下さいね」
「はい。ありがとうございます」

 軽く頭を下げて、教室を後にする早川先生。
 あと0.5%の解けない生徒が何だか気になるが、それはまぁ……私には関係無いこと。そう思いながら早川先生に貰った『今日のまとめ』をファイルに綴じて、数学の問題集と一緒にしまった。

 ふと窓の外に目を向ける。
 いつの間にか青空は灰色の厚い雲で覆われ、今にも雨が降り出しそうな空をしていた。


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