星降る夜に、あのラブソングを。
文化祭が終わり、平常通りの学校が戻ってきたある日の夕方。
ついにアパートで暮らし始める日がやってきた。
不動産屋から貰った鍵を使って中に入る。
何も無い殺風景な部屋が、これから私の部屋になると思うと少しだけワクワクした。
武内先生は必要最低限の家電を購入してくれていたようで。先生の部屋の玄関には雑然と置かれていた。
「何から何まで、本当にすみません」
「だから〜、良いんだって。気にしないでよ」
細く華奢に見える先生だが、意外と力持ちのようで。家電などを1人で軽々と運んでいた。
先生のお陰で次々と物が増えていく私の部屋。
作業開始から2時間も経たないうちに移動は完了し、あっという間に住める状況にまでなった。
1DKの、先生と同じ形の部屋。
一人暮らしは初めてだけど、下に先生が居ると思うと不思議なことに不安は無い。
「よし、完了! 柊木さんは荷解きとかしといて。僕は夜ご飯を買ってくるよ」
「分かりました。お願いします」
1人残された部屋でボストンバッグを開いて中身を出した。
制服はクローゼットの中に掛けて、私服は衣装ケースにしまって。
「……」
“普通に生きる”って、当たり前じゃない。
優しい両親が居るのは、当たり前じゃない。
親だからって、無条件に愛してくれると思ったら大間違いだ。
学校もそう。
小学校や中学校では『みんな仲良く』なんて言葉を掲げる先生がよく居る。
けれど『みんな仲良く』も、当たり前じゃない。
表向きは仲が良いかもしれない。
でも裏では……先生たちの知らない場所では、何が起こっているのか。
『みんな仲良く』の言葉に隠れ、その本質は見えない。
とはいえ、私の場合は担任公認の虐めだったけど。
隠れもせず丸見えだったのに、その時も『みんな仲良く』って書いてあった。
3年の時なんて『One for all! All for one! 』だよ。何が『1人はみんなのために、みんなは1つの目的のために』だ。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて、悔しくて、少しムカついたけれど。何故かその後、1周回って面白くなって。桜川工業高校のおじさんに、笑い話として聞いてもらった。
……なんて。
思い出したくない記憶なのに。
何故か急にそんなことを思い出して……小さく鼻で笑った。