星降る夜に、あのラブソングを。
第10話 雪舞う空の下
12月に入り、寒さが増してきた頃。
休憩時間に窓の外を眺めていると、パラパラと雪が降り始めた。
初雪だ……なんて思い、窓を開けて手を伸ばしてみる。
けれど、窓の上にある軒に邪魔されて届かない。
「……柊木さん、これは何」
ふいに聞こえてきた声。
武内先生、来るのが早いなぁなんて思いながら振り向くと、先生は求人情報が書いてあるフリー冊子を手に持っていた。
しまった……。そう思い頭を抱える。
授業が終わった後に冊子を取り出して、目星を付けた会社に付箋を立てていたんだ。そんな時に降り出した雪に気を取られてしまったせいで、出しっぱなしになっていた。
「……えへっ」
「えへ、じゃありません」
はぁ、と大きく溜息をついた先生は冊子を置いて私の元に歩み寄ってくる。そして頭を軽くチョップして、何故か私の体をそっと抱きしめた。ドキドキと、大きな音を立てている……先生の心臓。それが何だか新鮮で、私の頬が熱くなる感覚がした。
「気にするなって、あと何回言えば分かるの」
「だって……」
「言い訳は聞かないよ」
「……」
どうやら先生は本当に働いて欲しくないらしい。
高校生の本分は学業であり、それでなくても苦労して来た私には、学業に専念して欲しい。費用に関しては何も問題無いのだから、というのが先生の思いだと言っていた。
大体、意味が分からない。
赤の他人に、どうしてそこまでできるのか。私が少しでもアルバイトをすれば、先生の負担が少しでも減らせるのに……全く意味が分からない。そう疑問に思い、それを先生に確認してみた。すると「君のことが好きだから。僕が君を守りたい」とド直球な答えが返ってきたのだった。
「……先生って、変わっています」
「何とでも言えばいいよ」
「だけど先生。私、お金を稼がないと……。先生にどうお礼をすれば良いのか分かりません」
「お礼なんて要らないよ。僕はお礼を貰う為にやっているわけでは無いし」
そう呟くように言った先生は、やっと私の体を離してゆっくりと教壇の方へ移動した。
先生の姿を横目に、視線を再び窓の外へ向ける。
一層強まる降雪。
薄っすらとアスファルトを白に染めていく様子がどことなく儚い。
先生は無言で出席簿を開いて何かを記入している。その様子を遠くから何となく眺めていると……目が合った。
何故かドキッとして飛び跳ねる心臓。だけどそれの意味がまた分からなくて、つい首を傾げる。
「……柊木さん、雪遊びする?」
「え、雪遊び?」
「うん。今からのロングホームルームは特にやることが無いんだ。空き教室棟の裏なら誰も来ないから、そこで少し遊んでみよう」
「?」
「ほら、行くよ」
腕を掴まれ、半ば強引に『サクラ学級』から連れ出される私。
階段を駆け降りて1階に向かう中で、無邪気な子供のような表情をしている先生がとても印象的だった。