星降る夜に、あのラブソングを。
「雪~っ!!!」
「先生、声が大きいです!」
パラパラを通り越して、もはや吹雪。
両手を広げて全身で雪を感じている先生。
着ている紺色の背広はあっという間に白く染まり、その様子を見ているだけで寒さが増す。
しかし……。
今年は例年に比べて初雪観測も早いし、降る量も多いなぁ……。なんて思いながら私も空を見上げる。
雪が降る今日の空は、どんよりとした灰色をしていた。
「柊木さん、セーラー服が真っ白!」
「そういう先生もですよ」
「あ、本当だ」
薄く積もった雪を一生懸命に掻き集めて、小さな雪玉を作った。それをポンッと先生に投げると、見事背中に命中。「やったな……!」と小さく呟いた先生も雪を掻き集めて雪玉を作り投げてきた。言わば、仕返し。
だが、私もそう甘くない。先生が投げた雪玉は私に当たらずに、少し先のアスファルトに落ちて粉々になった。
「何で避けるの!」
「そりゃ避けますよ」
「僕にはぶつけたのに」
「先生の動きが鈍いのです」
授業中に何しているんだ。
そう言われても言い訳が出来ないくらいに楽しんでいる私と先生。
後ろめたさを少しだけ感じたけれど、人と遊ぶなんてとっても久しぶりなことだった私にとって、物凄く楽しい幸せな時間。
「くしゅんっ!」
外に出て30分も経っていないはずだが、先生は既に顔を真っ赤にしてクシャミをしている。その様子を子供みたいだと思いながら眺めていると、クシャミで涙目になっている先生は教室に戻ることを提案した。
「はぁ……冷えるし、戻ろうか」
「はい」
雪遊びをしようと自分から言い出したことなのに、小刻みに震えている様子が少し面白い。
空き教室棟の渡り廊下から校内に入り、コソコソと『サクラ学級』まで戻る私たち。「楽しかったです」と素直に出てきた言葉に、嬉しそうな表情をした先生は、頷きながら「良かった」と小さく呟いた後、コソッと私の耳元で囁いた。
「これからも君が楽しいと思えること、沢山しようね」
「…………」
偶然担任になっただけの武内先生が、こんなにも私に尽くしてくれる理由がやっぱり分からない。それでも、優しい武内先生の言葉は嬉しくて胸に響く。いつものように、つい涙が滲み始めるのだ。
「ほら。柊木さん、戻るよ」
「……」
目元をセーラー服の袖で拭い、先を歩く先生を目掛けてダッシュして、大きな背中に飛びついた。一瞬驚いたように体を震わせ、固まった先生。しかし、しばらくするとそっと私の手に触れて、優しく撫で始めてくれた。
雪のせいで少し濡れている先生の背広。そこに頬をくっつけるとひんやりと冷たさを感じる。
「柊木さん」
「先生、今の状況が理解できません」
「……自分からやったのに?」
「はい」
一瞬だけ吹き出すように笑い、その後は声を抑えてクックックと笑う。そんな先生の様子が面白くて、私も同じように笑った。
変わらず撫でてくれている手から先生の体温を感じる。「このまま行くかぁ」なんて言うから、笑いながら頷くと「出発!」と言って先生は歩き出した。
仄かな温かさに安心感を覚える私。抱きついたままの状態で『サクラ学級』を目指し、2人で一緒にゆっくりと階段を上った。