星降る夜に、あのラブソングを。
「メリークリスマス、柊木さん」
「メリークリスマスです」
朝のショートホームルーム。
いつも通り出席簿を持って現れた武内先生は、少し浮かれているような様子だった。
先生の部屋で朝食を食べた時はこんな感じでは無かったのに、何かあったのかな。
「ホワイト・クリスマスだね」
「そうですね」
その言葉に、2人して窓の外に目を向ける。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。
雲の隙間から僅かに覗く一筋の光が、ヒラヒラと舞い落ちる雪を輝かせていた。
「柊木さん、さっき職員室で聞いたんだ」
「何を……ですか?」
嬉しそうな武内先生は軽く手を叩き、ニコニコと微笑みながら出席簿に挟んでいた1枚の紙を取り出した。
「これ見て、クリスマスマーケットだって! 朝倉市の市役所駐車場で開催されるみたいなの。今日さ、一緒に行ってみない?」
「……いや、でも……」
チラシにチラッと目を向ける。
海外から直輸入のクリスマスグッズや、本場のウインナー、パエリア……県内最大級の特大クリスマスツリー……?
魅力溢れる文字の羅列に、心が少し奪われる。
しかし……隣の市とはいえ、先生と2人で出掛けるのは流石に不味いのでは……。
誰がどこで見ているか分からないし、朝倉市から通学してきている生徒も沢山いるはずだ。
「先生と2人でいるところを見られたら弁解できません」
「……やっぱ、不味い?」
「はい」
しゅん……と小さくなってしまった先生。
子供みたいにぷーっと頬を膨らませている様子が面白くて、つい笑いが零れてしまった。
「あ、笑ったな!?」
「笑っていませんよ」
「嘘つき!」
教壇から降りて私の元にやってくる先生から逃げる為、私は椅子から立ち上がって教室後方に向かって走る。そして、それを追い掛けて同じように走る先生。狭い教室で急遽追いかけっこが開幕。
「柊木さん、待て!」
「待ちません」
しばらく走り続けていると、段々とスタミナが切れてきた私。運動不足を痛感しながら徐々に速度を緩めると、追い掛けて来ていた先生は背後から私に飛びつき、優しく抱きしめた。
「ふぅ……捕まえた」
「捕まりました」
「呼吸荒いね」
「運動不足です」
先生はそっと後頭部にキスをして、頭を撫でる。
付き合っている訳では無いのに、最近の先生は愛情表情と取れる行為を普通にしてくる。だけど、満更でもない私。それがまた意味不明。
「じゃあ行くのは諦めて、家でミニパーティでもしよう。ぐるぐる巻きのウインナーも、パエリアもケーキも!! 全部用意しちゃうよ!」
「それは最早ミニじゃないです……!」
「僕にとってはミニなの〜」
今日は早く帰るぞー! と、まだ朝なのに意気揚々と拳を高らかに掲げる先生。
その様子がやっぱり面白くて、自然とまた笑いが零れた。