星降る夜に、あのラブソングを。
宛の無いドライブを続けること数時間。
途中で休憩を繰り返し、目的地も無くひたすら走り続ける先生。
時刻は5時50分。
朝倉市の海浜公園の駐車場に停車した。
まだ真っ暗なのに駐車場は車がいっぱい。
どの車もエンジンを掛けたまま、人が中で過ごしている。
「ここで初日の出を見よう」
「分かりました」
先生は自分と私のコートを後部座席から取り、着るよう促してくれる。「寒いけど、少し歩いてみない?」という先生の提案に力強く頷き、2人一緒に車から降りた。
車の数は凄いのに、外には人が誰もいない。
やはり寒いし、日の出までまだ時間があるからだろう。
私と先生の、砂を踏む音だけが……静かに響き渡る。
「見て、空」
促され空を見上げると、満天の星。
朝方だというのに、こんなにも星が見えることが不思議。
そういえば、実家にいた頃は毎日のように空を眺めていたのに、最近は頻度が減っている。
1人で見ていた星空。
今は、隣に武内先生が居る。
「どうしたの、僕の方見て」
「前から思っていたんですけど。武内さんと一緒に星空を見上げているのが、凄く不思議です」
「……『サクラ学級』から何度も一緒に空を見たけど、暗い時間っていうのは無かったからね」
「はい」
そっと伸びてきた先生の手。
その手に優しく握られ、先生のコートのポケットに収められる。
温かい。
人肌がこんなにも温かいこと、私は本当に知らなかった。
それからしばらく、外に出たり車に戻ったりを繰り返しながら日の出の時間まで待機した私たち。
先生が調べてくれた情報によると、ここの日の出時間は7時12分とのことだ。
その時刻が近付くにつれて海岸には人が増えてくる。
海へと続く石段。
家族、カップル、友人など。様々な形の人たちがみんな腰を据えて、目先の水平線を眺めていた。
「……知り合い、いませんか?」
ふいに、そんなことが気になった。
隣でくっついている先生の顔を見つめると、そっと目を細めて囁く。
「居ても、関係無い」
そんな言葉と共に肩を抱かれ、体は先生の方へ引き寄せられる。
力強い腕に安心感を覚えながらもたれかかってみた。
――――安心する。
たったそれだけの事なのに。
胸がいっぱいになって、自然と涙が零れた。
「……綾香」
私の涙に気が付いてくれた先生。
そっと指を差し出し、目元に溜まる涙をすくい上げてくれる。
「……呼び捨て」
「なんかその方が、親密度高くない?」
「……よく分かりません」
「えぇ」
だけど、なんだか胸が温まる感覚がした。
柊木さんって呼ばれるのも、綾香さんって呼ばれるのも違う。
優しくて、何だか温かい。
空は暗闇が姿を消し、東雲へと移り変わる。
今かと待つ他の人たちを横目に先生の胸に顔を埋めると、優しく頭を撫でてくれた。
「改めて、今年もよろしくね。綾香さん……」
「こちらこそです。武内さん」
周りの歓声が聞こえ始めたのを機に、ゆっくりと顔を上げて太陽に目を向ける。
赤々としたまん丸で大きな太陽が、ゆっくり……ゆっくりと、水平線から顔を覗かせ始めていた。