星降る夜に、あのラブソングを。
第 2 話 ひとりぼっち
1学期最後の日。
終業式に参加する為に武内先生と体育館に向かっていると、1年2組担任の飛谷康孝先生が小走りで駆け寄って来た。
「柊木さん、おはよう。1学期も終わりだね。どうだったかな、『サクラ学級』は」
「おはようございます。『サクラ学級』の存在には、かなり助けられました。本当なら2組の教室に行けたら良いんでしょうけど……すみません。飛谷先生」
「謝る必要は無いよ。学校が認めたんだから」
武内先生と飛谷先生に挟まれて、体育館に繋がる渡り廊下を歩く。そして中に入ると、生徒たちがクラスごとに並んで待機をしている様子が視界に入った。
「柊木さん、こっち」
「……はい」
私は生徒の列に入らず、武内先生と一緒に壁際に立った。
キョロキョロと顔を動かしている生徒が私を見つけて、後ろの人とこそこそと何かを話している。そんな様子に“過去”のことを思い出し、動悸がし始めた。
「……」
武内先生は無言で私の体を押し、体育館の隅っこに移動させる。そして先生は私の前に立ち、生徒たちの姿が視界に入らないようにしてくれた。
たったそれだけなのに。私は妙な安心感を覚え、徐々に落ち着きを取り戻す。
「柊木さん。無理する必要は無いよ」
「武内先生……すみません」
「無理なら教室に戻れば良い」
「……はい」
小声でそう会話をしていると、武内先生の隣に居た早川先生がこちらに気付き、視線を向けてくる。早川先生は真顔のまま武内先生の耳元に顔を寄せて何かを囁き、2人ともが小さく頷いていた。
その後、終業式は何事もなく終わった。
私と武内先生は生徒たちに解散指示が出る前に体育館を出る。
私たちは『サクラ学級』に戻る道中、一瞬だけ1年2組の教室に寄った。ロッカーの中に少しだけ置いていた荷物を取る為だったのだが、たったそれだけなのに動悸がし始めて体が大きく震え始める。
「生徒たちが戻ってくる。急ごう」
「はい」
武内先生は震えている私の肩を軽く叩いて移動を促した。
教室棟を出て、特別教室棟に入る。そこから渡り廊下を渡って空き教室棟に入れば『サクラ学級』。
小走りで廊下を進みながら窓の外に目を向けると、綺麗な景色が視界に入った。
最近気が付いたけれど、特別教室棟の廊下からは桜川市を一望できる。そんな綺麗な街並みを、ジリジリと焼けそうな太陽が静かに照らしていた。
「ここ、景色良いよね」
「……はい。私、この景色を見たくてここに入学しました」
「珍しいね。景色目当てなんて」
「それだけ見るのが好きなんです」
遠くに母校の中学校が見える。その学校に良い思い出なんて1つも無いけれど。それでもやっぱり不思議と懐かしさを感じる。
「冬になったら夜景も見てみよう。ここからの夜景はもっと綺麗だよ」
「そうなんですか、楽しみです」
武内先生と目を合わせて微笑むと、先生も優しく微笑んだ。
夜景。絶対に綺麗。
いつ来るか分からないその日が楽しみに感じる。
『サクラ学級』に向かって歩き始めた武内先生の後ろを、軽くスキップをしながら付いて行った。