星降る夜に、あのラブソングを。


「ここだけの話、2年生になってからも『サクラ学級』の担任は僕みたい」
「本当ですか……ていうか……」
「うん。どうしたの」
「……本当に、このまま学校に通い続けても良いのですか。自分でお金も払えないのに、良いのでしょうか」


 武内先生の部屋で頂く夕食。先生が作ってくれた大きなハンバーグを前に、ポツリと悩んでいた言葉を零す。

 ここまで、ずっと武内先生が支えてくれた。

 本当にバイトもさせて貰えず、私が生きる為のお金は全て武内先生が負担してくれていた。


 だからこその、疑問。


「……」


 私の言葉に、ムスッとして唇を尖らせる先生。

 そして、私の額を目掛けて腕が伸びてきて、ぺちっとデコピンをした。

 優しくて痛みの無いデコピン。
 だけど、先生は変わらず不満そうだ。


「……あのさぁ、あと何回言う?」
「何回でも言います。私、本当に申し訳無くてやりきれません」
「気にしなくて良いって言っているでしょう。内山先生も言っていたでしょ。素直に甘えとけって。その通りなんだから」
「だって、どう考えても先生の重荷になっていると思います」
「……だからさぁ~、もうっ」


 勢いよく椅子から立ち上がり、先生は小走りで私の隣にやってきた。
 真剣な表情の武内先生はそっと私の腕を取り立ち上がらせ、ゆっくり優しく重ねられる唇。

 ついばむようなキスを繰り返され、思わず足の力が抜けて床に座り込んでしまった。

 それでも、先生はキスを止めない。


「せ、せんせ……っ!」
「綾香」
「!」


 吐息交じりで名前を呼ばれ、体が飛び跳ねる。
 顔が火照って赤らんでいる先生。いつもと違う様子に、心臓がドキドキして苦しい。


「綾香……僕のことが嫌い?」
「えっ、そんなこと……」
「じゃあ、好き?」
「……好き、です」
「ならさ……もう、いいじゃん」
「……?」


 蕩けそうな表情で、唇を噛み締めながら瞳を潤ます先生。「いいじゃん……」ともう一度呟きながら、潤んだ瞳から一筋の涙を零した。


「僕は綾香のことを愛している。だから、もうさぁ……何も考えず、大人しく僕に養われてよ……。重荷なんて、一度も思ったことないんだから」


 唇に薄っすらと血が滲むくらい、強く噛み締めている先生。一筋零れ落ちた涙を機に、止め処なく溢れ始めた涙を拭うこともせず。ただただ優しく、抱きしめてくれる。

 抱きしめてくれた手は、そっと背中を撫でてくれた。


「ずっと、綾香の隣に居させて」
「………そんなの、私の台詞です」
「好きだよ」
「私も好きです。本音は、私もずっと……慎二さんの隣に居たいです」
「……うん」


 私の頭も抱えて、より抱きしめる腕に力を入れてくれる。

 あまりにも優しい。
 武内先生は、あまりにも……優しかった。



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