星降る夜に、あのラブソングを。
第 3 話 唯一の居場所
夏休みに入ったというのに、私は相変わらず『サクラ学級』に来ていた。家にも居場所が無い。そんな私の為に、勉強をする場所として武内先生が教室を解放してくれているのだ。
「……暑い」
今日も教室から1人静かに空を見上げる。真っ青な空に真っ白な入道雲が湧き立っていた。
「柊木さん」
「武内先生……おはようございます」
「おはよう」
大きな段ボールを持って現れた武内先生。その箱を机の上に置き、中から学校には無関係の物を取り出した。
『かき氷機』と書かれている。
「えっ」
「ふふふ、夏だし……やっちゃう?」
「いや、氷は?」
「もうすぐ来るよ」
「?」
ニヤニヤとしながら箱から本体を取り出し、皿やシロップなどを並べる。その様子を呆然と眺めていると、『サクラ学級』にもう1人現れた。
「柊木さん、おはようございます。武内先生、お待たせしました」
「早川先生ありがとうございます」
本当に氷が来た。割と大き目な氷を抱えた早川先生はニコニコとしながら机に置く。
一体、どういう状況なのだろうか。
先生2人。
ニヤニヤとニコニコの2人が、楽しそうにかき氷機のセットをし始めた。
「数学科準備室は良いですよね~。こんな氷を保管できる冷凍庫があるなんて」
「でしょう。前任者の置き土産らしいですけど」
「前任者の自前!?」
2人はテンポの良い会話を繰り返しながら、セットを完了させる。そしてボタンを押すよう促された私は、言われた通りに押してみると……ガガガガッと、かき氷機が動き始めた。
皿の上にどんどん乗せられていくふわふわそうな氷。氷が山のようになったところで武内先生はボタンを止め、皿を取り出した。
「かき氷、おまちどおさま!」
「柊木さん、お好きなシロップを掛けてお召し上がり下さい」
未だに状況が読めない私は、取り敢えずイチゴシロップを手に取って掛けてみた。
ニヤニヤとニコニコの2人に見つめられながら両手を合わせて氷を口に運ぶ。
冷たくて甘いかき氷。
暑く火照っている体に染み渡る冷たさが心地よくて、何より美味しかった。
「…美味しいです」
その一言に、2人は更に表情を緩める。しかも武内先生は手を叩きながら飛び跳ねた。
「成功だ! 早川先生、ご協力ありがとうございます!」
「いえいえ、良いですよ。それでは僕も生徒のところに持って行ってくるので、もう1つお願いします」
「サクッと削りましょう。藤原さんは、何味がお好みですかね?」
「分からないので、イチゴとレモンとブルーハワイの3種類を掛けます」
「ミックス!?」
早川先生は、私と同じクラスの女子生徒に数学の補習を行っているらしい。
今日もこの『サクラ学級』の下の空き教室で補習中らしく、その“藤原さん”という生徒に差し入れをするみたい。同じクラスの子なのに、私はその子の顔すら思い浮かばない。向こうも私のことなんて分からないだろうけれど。