懐妊一夜で、エリート御曹司の執着溺愛が加速しました
尽くして捨てられ、救われる

(どうして? 私のなにが悪かったの?)

三年交際した相手から突然、婚約破棄を告げられた。

ショックが大きすぎて涙さえ出てこない。

けれどもふたりの思い出が詰まった自宅アパートに帰れば、泣かずにはいられないだろう。

長い夜をひとりで泣き明かすのは嫌だと思っていると、憧れだった上司に誘われた。

「ひとり暮らしだから遠慮はいらないが、覚悟はしてほしい。今の俺は上司ではなく、ひとりの男だ」

形のいい唇が挑戦的に弧を描いていた。

紳士的ではない顔をする彼を見たのは初めてだった――。


* * *


ここは日本で五指に入る大手保険会社、『協働(きょうどう)生命』。

東京都の丸の内に建つ十二階建ての本社ビルでは、三千人近い社員が働いている。

四階の営業部二課のフロアでは、窓際のデスクで二十八歳の菅野明日香(かんのあすか)が電話対応をしていた。

「申し訳ございません。ただ今、草尾(くさお)は席を外しております。十六時頃に戻る予定でおりますが、折り返しご連絡差し上げてよろしいでしょうか?」

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