未定
なぜ嫌われているのかわからないのでどうすることもできず、妹との不仲は明日香にとって長年の悩みだった。

その妹が自分にコーヒーを差し入れてくれて、しかも笑みまで向けてくれる。

「あ、ありがとう」

驚きと喜びでカップを受け取った手が震える。

言葉が続かない明日香を見て、妹がクスッとした。

「どういたしまして。まだかかりそうなの?」

「あと三十分くらいで終わると思う」

「そう、頑張って。私は先に上がるね。お姉ちゃん、おつかれさま」

「う、うん。コーヒー、本当にありがとう!」

ハイブランドの素敵なバッグを腕にかけ、すっかり大人の女性になった妹の背に、あどけない頃の姿が重なる。

母は体が弱かったので、幼い妹の世話をするのは明日香の役目だった。

どこへいくのもなにをするのも一緒で、『仲がいいね』と近所の人に微笑まれた。

叶うなら、あの頃のように妹と手を取り合いたい。

(愛理、期待していい?)

冷房で冷えた体に温かいコーヒーが染み渡る。

この喜びを恋人に聞いてもらいたくて、ますます気合を入れて残りの仕事を片づけた。

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