未定
どうやら動画を見ているようだ。

ふたりで過ごす時の彼はたいていそうなので、少し寂しい気もするが、さほど気にならない。

「遅い」

「ご、ごめん。だいぶ待ったよね」

「ビール三杯ほどな。あのくらい、さっさと終わらせろよ。のろまだな」

そう思うのなら自分でやればいいのにと不満に思ったが、口には出さない。

彼に意見して、よかったと思った試しがない。

不機嫌になって帰ってしまえば、『大事な話』が聞けなくなりそうでもある。

彼との三年の交際で、明日香が我慢すればうまく付き合っていけると学んでいた。

「のろまでごめん。次はもっと頑張るから」

いつものように悪くなくても謝り、眉尻を下げて微笑むと、それ以上の文句はなかった。

「なに飲む?」

「ええと……」

迷っていると、彼が勝手にマスターに注文する。

「ビールもう一杯と、シャンディガフ。いいよな?」

「う、うん」

ビールベースではないカクテルがよかったが、せっかく選んでくれたのだからそれを飲むことにした。

草尾が残したつまみを食べながらカクテルを飲み、動画を見ている彼に話しかける。

「残業中に嬉しいことあったんだ」
< 12 / 34 >

この作品をシェア

pagetop