未定
彼が飲み食いした分だけで六千円を超えているのにと呆れる。

(利用するだけ利用して、捨てたあともまだ利用する気だなんて、私って男を見る目がないな……)

ショックや悲しみに加え、悔しさも込み上げる。

唇を噛んでじっと手元を見つめていると、カウンター内からマスターに小声をかけられた。

「大丈夫?」

狭い店内に流れるピアノジャズは控えめで、他の客は静かに飲んでいる。

どうやら自分たちの別れ話が聞こえてしまったらしい。

「フラれちゃいました」

苦笑して恥ずかしさをごまかし、マスターにカクテルを注文する。

「マティーニをください」

「かしこまりました。しかし、草尾さんがあんな人だと思わなかったな。大丈夫、あなたは素敵な女性だから、もっといい男がすぐに現れます。今日は飲んで忘れてください。一杯、サービスしますから」

「ありがとうございます」

すぐに出されたマティーニは、逆三角形のグラスに注がれ、ピックを刺したオリーブの実が中に入っていた。

数口で飲めそうな少量だが、アルコール度数はかなり高い。

< 18 / 34 >

この作品をシェア

pagetop