未定
明日香は酒に強い方ではないので普段は注文しないが、今の自分には必要なカクテルだ。

(マスターの言う通り、飲んで忘れよう)

グラスをクイッとあおると、熱さが喉から食道、胃へと順に移る。

明日は休日なので、体調を気にせず飲めるのが唯一の救いだ。

(ひどい人。別れられてよかったんだよ、きっと。でも、優しくしてくれた時や楽しい時もあったのに……)

明日香が風邪を引いて高熱を出した時、スポーツドリンクや薬を買って玄関のドアノブにかけてくれたことがあり、彼の優しさに目が潤んだ。

ネットで評判のカレーパンを目当てにふたりで遠出したり、自宅で一緒に映画を見て笑ったり、楽しかった記憶もたくさんある。

草尾を嫌いになりたいのに、なぜかいい思い出ばかり浮かんできて困った。

泣きたい気持ちを紛らわせたくて、一杯目のマティーニを飲み干し、お代わりを頼む。

サービスでナッツをつけてくれたが食欲がないので食べる気になれず、昼からなにも食べていない空っぽの胃に強い酒を流し込んだ。

(勇吾の顔を思い出せないくらいに、酔い潰れたい)

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