未定
外回りをする営業スタッフはオフィススーツ姿だが、内勤の事務職の明日香は白い半袖ブラウスに山葵色のベストと膝丈タイトスカートを着用している。

卵形の顔に大きくも小さくもない奥二重の目と、特徴のない平凡な鼻と口。肩下までのストレートの黒髪をひとつに結わえ、メイクはごく薄く、同年代の女性社員の中で地味な方だろう。

大人しいデザインと色ばかりの私服だとなおさらだ。

流行に合った服装やメイク、髪形の友人たちを素敵だと思うけれど、明日香の好みはシンプルでナチュラルなものだ。

それぞれ好きな格好をしていいと思うので、このスタイルを変えるつもりはなかった。

今日も真面目に丁寧に仕事を進め、時刻は十六時を回った。

営業部二課のフロアは、四つの島に分かれた八十ほどのデスクが並んでいる。

顧客の大半は法人で、発送する資料をまとめていると、入口から遠い明日香の席にまっすぐ向かってくる人がいた。

気配に気づいて振り向くと、草尾勇吾(ゆうご)で、明日香の横で足を止めた。

三十二歳の彼は営業部のエースで、二課では新規顧客獲得の件数がずば抜けている。

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