未定
協働生命の常務取締役を務める彼は、二年前は営業部の部長で、明日香は入社時から四年間、彼の下で働いてお世話になった。

年はたしか三十六歳。

その若さで重役に昇進したのは、会長の孫で後継者とされているためだろう。

『苦労せずに人生勝ち組。ずるいよな』

『俺も御曹司に生まれたかった』

そのような心無いやっかみを社内で耳にしたことがあるけれど、明日香はそうは思わない。

部長職に就いていた時の彼は優れたリーダーだった。

視野が広く、全体を考えて的確な指示をくれるから、無駄なくスムーズに仕事が進んでいたように思う。

誰かがミスした時のリカバリー力は頼もしく、叱責より反省点を一緒に考えてくれる優しい上司でもあった。

また、部下のひとりひとりをよく見ていて、日常的に声をかけてくれた。

新人の頃の明日香は自信がなくて、いつもおどおどとしていた。

先輩社員のスピーディーな仕事ぶりに圧倒され、自分がこの会社でやっていけるだろうかと不安になっていた。

そんな時に決まって声をかけてくれるのは広瀬だった。

『菅野さん、なにか困ってる?』

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