未定
『あ、あの、なにから始めていいのかわからなくて考えていたんです。優先順位をすぐに決められなくて……。仕事が遅くてもうしわけありません』

『菅野さんの持ち味は丁寧さだ。スピードよりそれを大事にしてほしい。今は覚える期間だからゆっくりでいいんだよ。業務量が多ければ調整するので遠慮なく言ってくれ』

あの時のホッとした気持ちを今でも覚えている。

広瀬のおかげで無理なく、焦らずにステップアップしていけたのだ。

二年前までお世話になった上司に心配され、明日香は激しく動揺した。

酔いで頭がまともに働かなくても、草尾との別れ話を聞かれてしまったのはわかる。

(こんなみじめな姿を広瀬常務に見られるなんて。恥ずかしい……)

「急性アルコール中毒になっては大変だ。早く水を飲んで。ひとりで飲めないなら手伝うが」

「の、飲めます」

慌ててコップの水を半分ほど飲んで、席を立つ。

草尾が置いていった一万円札をマスターに渡して、広瀬に頭を下げた。

「お水、ありがとうございました。お先に失礼します」

「自宅まで送るよ」

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