未定
閉じた瞼からあふれだした涙がシーツを濡らす。

泣き顔を両手で隠すと、手首を掴まれて外された。

「目を開けて。君を抱いているのは誰?」

「広瀬常務です……」

「あいつを忘れさせるから、俺から目を逸らさないで」

そこから先は彼の言った通りになる。

激しく腰を打ちつけられて絶頂に導かれると、なにも考えられない。

三年交際した相手の顔を思い出す余裕もなく、呼吸を乱して広瀬にしがみついた。

強烈な快感で意識を飛ばしたのも初めてだ。

そのまま眠りに落ち、夢の中で会ったのは、かつて営業部の部長だった時の広瀬だった。

(私が困っているとすぐに気づいて声をかけてくれる。広瀬部長のおかげで、また明日も頑張れそう……)



翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日で目覚めた明日香は顔をしかめた。

体がだるく、頭痛がして胃も少し気持ち悪い。

(飲みすぎた……あれ、ここは?)

寝ていたのは大きなベッドだ。

シックで高級感ある部屋には機能的なライティングデスクがあり、壁の一面はクローゼットの扉になっている。

知らない部屋の様子に一瞬、混乱したが、すぐにハッと昨夜を思い出した。

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