未定
メモにはその他に、シャワーを含め家にあるものは自由に使っていいことや、玄関ドアは自動ロックなので一度出たら開かないから気をつけてほしいことなども書かれていた。

優しい笑みをたたえる広瀬の顔を思い出しながら、気遣いあふれる文章を読み、心が温かくなる。

(このメモ用紙、もらってもいい?)

記念というのはおかしいが、大事に取っておきたい。

やけになって抱かれたのは自分らしくないけれど、そこに後悔はなく、広瀬に感謝している。

おかげで泣き明かさずにすみ、フラれたショックの波は昨夜に比べるとかなり引いていた。

今は冷静に、草尾について考えられる。

(勇吾にとって私は、利用価値のある存在だっただけで、最初から愛されていなかった。結婚前にそれがわかってよかったんだよ)

メモ用紙を持ち帰ろうとして手に取ると、下から名刺が現れた。

常務取締役の肩書が書かれた広瀬のもので、なぜ自社の社員である自分に名刺をくれるのかと疑問に思い、ひっくり返す。

すると裏に社用ではない電話番号とアドレスが書かれ、『必ず連絡して』とメッセージが添えられていた。

(どうして?)

< 32 / 34 >

この作品をシェア

pagetop