未定
食器は洗って片づけ、忘れものがないかを確かめてリビングのドアノブに手をかける。

メモ用紙はショルダーバッグにしまったが、名刺はダイニングテーブルに置いたままだ。

ドアを開けると後ろ髪を引かれるような気持ちがして、思わず振り返る。

(あの名刺を持ち帰ったら、連絡を取り合う関係になれる……?)

失恋したばかりで次の恋を始める心の余裕はないし、広瀬とつき合いたいなんて身の程知らずな希望も持たない。

それでもほんの少しだけ、彼と繋がっていたいと思ったのは、上司としての彼の人柄に惹かれているせいだ。

彼を慕うその気持ちに即座に蓋をする。

(これ以上の迷惑はかけられない。他言しない約束はしたから、広瀬常務も安心してくれるはず)

顔を前に向け、玄関の外まで出た。

電子錠が閉まる音がして、これでいいのだと自分に言い聞かせる。

マンションの外へ出ると、暑い日差しに目を細めた。

(いい天気。昨日ほど胸が痛くない。二日酔いも大丈夫。帰ったら、勇吾の私物を片づけよう。私って案外、強い?)

片手で日差しを作って真っ青な空を見上げ、口角を上げると、前向きな気持ちになれた。



< 34 / 34 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
  • 書籍化作品
[原題]100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~

総文字数/140,972

恋愛(純愛)243ページ

表紙を見る
まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
  • 書籍化作品
表紙を見る
愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
  • 書籍化作品
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop