未定
喉が渇いても飲み物を買う暇もなくキーボードに指を走らせていると、ふと影が差した。

隣を見ると明日香と同じ制服姿の若い女性社員が立っていて、カップのコーヒーを机に置いてくれた。

「愛理(あいり)……」

やや明るい肩までの髪は、緩いウェーブがついてふんわりと優しい雰囲気を醸している。

流行を意識した上手なメイクでパッチリとした目元が可愛らしい。

地味な明日香とは対照的に異性にモテそうな容姿の彼女だが、よく見れば顔立ちは似ている。

それもそのはずで、菅野愛理は明日香の三歳下の妹だ。

ふたり姉妹で幼い頃は仲がよかったけれど、愛理が小学三年生になった時から急に突っかかってきたり、無視されたりするようになった。

関係を改善できないまま大人になり、今でも妹から嫌われていると感じる。

それなのに今年の四月に中途採用でこの会社に入ってきたから驚いた。

しかも部署まで一緒で、これを機会に妹と仲よくなれるのではないかと期待したのだが、その考えは甘かった。

『馴れ馴れしくしないで。業務上の会話しかしないから』

愛理が入社したその日の言葉である。

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