【続】なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる
4.魔法研究の協力
(色々と言いすぎてしまったかしら……)
翌朝、アガタさんに着替えを手伝ってもらいながら、私は昨日のことを思い出して赤面していた。
国王陛下にも、令嬢達にも、ちょっと大胆なことを言ってしまったような気がする。……とは言え、全て本当のことではある。セス様の隣に立つに相応しいキンバリー辺境伯夫人として、間違ったことは何一つ言っていない筈だ。
あの令嬢達が言っていたように、私がセス様とは釣り合っていないという思いは、今もなくなってはいない。堂々と胸を張って、セス様の隣に立ちたいし、その為の努力もしているけれども、まだ少し、自分には自信を持てない私がいる。だけど、セス様に選ばれたのは私なのだから、そのことには自信を持ちたいと思う。何よりも、私をとても大切にし、愛してくれるセス様の想いを否定するなんて、そんな失礼なことはしたくない。
「奥様、今日の髪型はどうなさいますか?」
アガタさんに聞かれて、私はハッと我に返った。
「そ……そうですね。今日は魔法研究所に行くので、邪魔にならない程度に纏めてもらえると助かります」
「畏まりました。お任せください」
アガタさんは器用にサイドの髪を編みながら一つに纏め上げ、仕上げに髪飾りをつけてくれた。可愛さもありながら大人っぽくなって、私は大満足だ。
「ありがとうございます、アガタさん」
「どういたしまして。とてもお綺麗ですよ」
支度を終え、食堂でセス様と朝食をとる。
「サラ。分かっていると思うが、ベネット所長に言われるがまま、魔力を使いすぎるなよ」
「はい、気を付けます。ご心配ありがとうございます」
セス様に心配され、温かい気持ちになりながら、朝食を終える。その後、出仕するセス様と一緒に馬車に乗り、王宮の敷地内にある魔法研究所まで送ってもらった。到着すると、王宮でのお仕事に向かうセス様と別れて、私は研究所の人に応接室に案内してもらう。出されたお茶を頂きながら待っていると、せわしないノック音が連続した直後、勢いよく扉が開いた。
「フォスター伯爵令嬢! じゃなかったキンバリー辺境伯夫人! お久しぶりですお会いしたかったですご結婚おめでとうございます! 早速ですがこの紙に魔力を込めてもらえませんか!?」
黒のローブを身に纏い、フードを目深に被った人物が飛び込んできた。顔はよく見えないけれど、声と言動からして、エマ・ベネット魔法研究所所長で間違いない。
「ありがとうございます、ベネット所長。お久しぶりですね。私がご協力できることでしたら、何なりと」
「ありがとうございます宜しくお願い致します! あっそれが終わったらこれとこれとこれも……」
「あ……はい。順番に……」
相変わらずなベネット所長に、私は微苦笑を浮かべる。
(懐かしいわ、この感じ。ベネット所長も変わっていないわね。あ、でもノック音がしただけ、昨年よりも改善されたかしら?)
一年ぶりの再会に、何だか懐かしく思いながらも、ベネット所長の魔法研究に協力する。少しずつ違う複雑な幾何学模様のようなものが描かれた紙に、順番に魔力を込めてベネット所長に渡していく。ベネット所長が魔法を発動させると、効果が出る紙とそうでない紙があったけれど、ベネット所長はどれも興味深そうに、心底楽しそうに結果を記録していった。
「ベネット所長、こちらも終わりましたわ」
流石に疲れを感じてきて、もう十枚は超えただろうか、と思いながら、魔力を込め終わった紙をベネット所長に渡す。私はあまり魔力を使いすぎると、翌日の体調に影響が出てしまうのだ。
(明日のことも考えると、後一枚か二枚が限界かしら……)
明日はセス様とお休みを合わせて、王都を観光する予定なのだ。前々から楽しみにしていたし、キンバリー辺境伯家の皆や国境警備軍の人達へのお土産も見るつもりなので、極力体調は万全にしておきたい。
「ありがとうございます! あああやっぱりフォスター、じゃなかったキンバリー辺境伯夫人がいてくださるととても捗ります!」
「サラ、で構いませんわ、ベネット所長」
まだベネット所長が『キンバリー辺境伯夫人』には慣れないようなので、私は微笑みを浮かべながら提案してみた。
「ありがとうございます! では私のこともエマとお呼びください! では次はこちらにも魔力を込めていただきたくお願い致します!」
「あ……はい……」
全く衰えないベネット所長の勢いに少々閉口しながら、差し出された紙を受け取る。
「失礼。ベネット所長、そろそろ妻を返していただきたいのだが」
突然セス様の声がして、私は驚いて振り返る。いつの間にか日はすっかり傾いていて、夕日に照らされながらセス様が歩み寄ってきていた。
「えええ!? もうこんな時間!? キンバリー辺境伯、すみませんが後もう少しだけ奥様をお借りしたく……!」
「お前のもう少しに付き合っていたら、日が暮れるどころか夜が明けるだろうが。キンバリー辺境伯夫人もお疲れのようだし、今日はここまでにしておけ」
「そんなあぁぁ……お兄様……」
セス様の後から入室してきたベネット副所長にも諭され、ベネット所長は泣く泣く諦めたようだ。少しほっとしてしまった。
「セス様、迎えに来てくださって、ありがとうございます」
「構わん。俺も帰るついでだからな」
「サラ様、また後日どうか宜しくお願い致します!」
「分かりました。それまでにしっかり回復しておきますわ」
ベネット所長達に挨拶して、私達は馬車で屋敷に帰る。
「サラ、いくらベネット所長の頼みとは言え、無理はしていないだろうな」
「流石に少し疲れましたが、大丈夫です。明日は少しおまじないの作成を控えさせてもらえれば、全然問題ありませんから」
「……ならいいが……」
いつもよりは少し魔力を使い過ぎてしまったが、本当に無理をする前に開放してもらえたので、明日の王都観光は多分大丈夫だろう。心配してくれるセス様を有り難く思いながら、私は微笑んで見せた。折角セス様と王都でデートができるのだから、絶対に中止にしたくない。
屋敷に帰り、セス様と夕食をとる。アンナさんにお勧めのお店を聞いたり、アガタさんとお土産の相談をしたい所ではあったけれど、念の為、その日は早めにベッドに入って、ゆっくり休息することにした。
翌朝、アガタさんに着替えを手伝ってもらいながら、私は昨日のことを思い出して赤面していた。
国王陛下にも、令嬢達にも、ちょっと大胆なことを言ってしまったような気がする。……とは言え、全て本当のことではある。セス様の隣に立つに相応しいキンバリー辺境伯夫人として、間違ったことは何一つ言っていない筈だ。
あの令嬢達が言っていたように、私がセス様とは釣り合っていないという思いは、今もなくなってはいない。堂々と胸を張って、セス様の隣に立ちたいし、その為の努力もしているけれども、まだ少し、自分には自信を持てない私がいる。だけど、セス様に選ばれたのは私なのだから、そのことには自信を持ちたいと思う。何よりも、私をとても大切にし、愛してくれるセス様の想いを否定するなんて、そんな失礼なことはしたくない。
「奥様、今日の髪型はどうなさいますか?」
アガタさんに聞かれて、私はハッと我に返った。
「そ……そうですね。今日は魔法研究所に行くので、邪魔にならない程度に纏めてもらえると助かります」
「畏まりました。お任せください」
アガタさんは器用にサイドの髪を編みながら一つに纏め上げ、仕上げに髪飾りをつけてくれた。可愛さもありながら大人っぽくなって、私は大満足だ。
「ありがとうございます、アガタさん」
「どういたしまして。とてもお綺麗ですよ」
支度を終え、食堂でセス様と朝食をとる。
「サラ。分かっていると思うが、ベネット所長に言われるがまま、魔力を使いすぎるなよ」
「はい、気を付けます。ご心配ありがとうございます」
セス様に心配され、温かい気持ちになりながら、朝食を終える。その後、出仕するセス様と一緒に馬車に乗り、王宮の敷地内にある魔法研究所まで送ってもらった。到着すると、王宮でのお仕事に向かうセス様と別れて、私は研究所の人に応接室に案内してもらう。出されたお茶を頂きながら待っていると、せわしないノック音が連続した直後、勢いよく扉が開いた。
「フォスター伯爵令嬢! じゃなかったキンバリー辺境伯夫人! お久しぶりですお会いしたかったですご結婚おめでとうございます! 早速ですがこの紙に魔力を込めてもらえませんか!?」
黒のローブを身に纏い、フードを目深に被った人物が飛び込んできた。顔はよく見えないけれど、声と言動からして、エマ・ベネット魔法研究所所長で間違いない。
「ありがとうございます、ベネット所長。お久しぶりですね。私がご協力できることでしたら、何なりと」
「ありがとうございます宜しくお願い致します! あっそれが終わったらこれとこれとこれも……」
「あ……はい。順番に……」
相変わらずなベネット所長に、私は微苦笑を浮かべる。
(懐かしいわ、この感じ。ベネット所長も変わっていないわね。あ、でもノック音がしただけ、昨年よりも改善されたかしら?)
一年ぶりの再会に、何だか懐かしく思いながらも、ベネット所長の魔法研究に協力する。少しずつ違う複雑な幾何学模様のようなものが描かれた紙に、順番に魔力を込めてベネット所長に渡していく。ベネット所長が魔法を発動させると、効果が出る紙とそうでない紙があったけれど、ベネット所長はどれも興味深そうに、心底楽しそうに結果を記録していった。
「ベネット所長、こちらも終わりましたわ」
流石に疲れを感じてきて、もう十枚は超えただろうか、と思いながら、魔力を込め終わった紙をベネット所長に渡す。私はあまり魔力を使いすぎると、翌日の体調に影響が出てしまうのだ。
(明日のことも考えると、後一枚か二枚が限界かしら……)
明日はセス様とお休みを合わせて、王都を観光する予定なのだ。前々から楽しみにしていたし、キンバリー辺境伯家の皆や国境警備軍の人達へのお土産も見るつもりなので、極力体調は万全にしておきたい。
「ありがとうございます! あああやっぱりフォスター、じゃなかったキンバリー辺境伯夫人がいてくださるととても捗ります!」
「サラ、で構いませんわ、ベネット所長」
まだベネット所長が『キンバリー辺境伯夫人』には慣れないようなので、私は微笑みを浮かべながら提案してみた。
「ありがとうございます! では私のこともエマとお呼びください! では次はこちらにも魔力を込めていただきたくお願い致します!」
「あ……はい……」
全く衰えないベネット所長の勢いに少々閉口しながら、差し出された紙を受け取る。
「失礼。ベネット所長、そろそろ妻を返していただきたいのだが」
突然セス様の声がして、私は驚いて振り返る。いつの間にか日はすっかり傾いていて、夕日に照らされながらセス様が歩み寄ってきていた。
「えええ!? もうこんな時間!? キンバリー辺境伯、すみませんが後もう少しだけ奥様をお借りしたく……!」
「お前のもう少しに付き合っていたら、日が暮れるどころか夜が明けるだろうが。キンバリー辺境伯夫人もお疲れのようだし、今日はここまでにしておけ」
「そんなあぁぁ……お兄様……」
セス様の後から入室してきたベネット副所長にも諭され、ベネット所長は泣く泣く諦めたようだ。少しほっとしてしまった。
「セス様、迎えに来てくださって、ありがとうございます」
「構わん。俺も帰るついでだからな」
「サラ様、また後日どうか宜しくお願い致します!」
「分かりました。それまでにしっかり回復しておきますわ」
ベネット所長達に挨拶して、私達は馬車で屋敷に帰る。
「サラ、いくらベネット所長の頼みとは言え、無理はしていないだろうな」
「流石に少し疲れましたが、大丈夫です。明日は少しおまじないの作成を控えさせてもらえれば、全然問題ありませんから」
「……ならいいが……」
いつもよりは少し魔力を使い過ぎてしまったが、本当に無理をする前に開放してもらえたので、明日の王都観光は多分大丈夫だろう。心配してくれるセス様を有り難く思いながら、私は微笑んで見せた。折角セス様と王都でデートができるのだから、絶対に中止にしたくない。
屋敷に帰り、セス様と夕食をとる。アンナさんにお勧めのお店を聞いたり、アガタさんとお土産の相談をしたい所ではあったけれど、念の為、その日は早めにベッドに入って、ゆっくり休息することにした。