777回目の告白はアンラッキー
777回目の告白はアンラッキー
あたしには大好きな人がいる。
7歳年上の隣の家のヨウ君。幼稚園の頃からの初恋。爽やかな笑顔でおはよう!って挨拶してくれるし、いつも遊んでくれる大好きなお兄ちゃんだった。
幼稚園児のあたしは素直な気持ちのまま、真っ直ぐに「ヨウちゃん、大好き!」と伝えていた。
小学生になってもヨウちゃんのとこが、好きで毎年バレンタインチョコもあげたし、朝だろうが、夜だろうが、出会うたびに「今日もカッコいい!大好きー!」と、告白も繰り返してきた。
言われたヨウちゃんは否定するわけでもなく、気持ちを受け止めてくれるわけでもなく、「ハイハイ……」「また、言ってるの?」「おはよう」「わかったよ」なんて相づちを打つような返事をし、軽〜く受け流すのだった。
「スズ、あんまり好き好きって簡単に言っていると、軽い言葉になって、相手は本気だと思えなくなるよ」
そう言われたのは、小学校6年生の時だった。確かに好きと言うのが、日課のような、挨拶がわりのようになっていた。
この頃、ヨウ君はブレザーの制服が似合う高校生だった。確かにそうかもしれないと思って、あたしは好きと伝えることを少しためらうようになってきた。
大学生になったヨウちゃんは、やっぱり変わらず、かっこよくて優しくて、時々、勉強も教えてくれた。中学生だったあたしはその頃も、ずっと好きで居続けた。
好きと言った回数を数え始めてから、もう776回になる。
小学生の頃に好き!と挨拶のように言っていたのをカウントしていいのか、どうかわからないけど、とりあえず回数だけはスゴイ!と自分を褒めてあげたくなる。
後、一回でラッキーセブンじゃない?この一回を大切にとっておいて、奇跡起こしちゃう!?そんなことを考えてワクワクしたり、ヨウちゃんの彼女になった自分を妄想したりした。
高校生になった私はやっぱりヨウちゃんが好きだったけど、社会人になった彼は、急に大人に見えて、どこか近寄りがたくなった。仕事で帰る時間も遅くなって、なかなか会えなくなっていった。
4月にしては暑いくらいの陽気の日、ひさしぶりに日曜の朝、ヨウちゃんに出会った。背が高くて、ポロシャツに腕時計をし、少しラフな格好している大人のヨウちゃん。やっぱりいつ見ても、ドキドキする。
「おはよう。スズ、どこか行くのか?」
「おはよう。お母さんに買い物頼まれたから行くところ。ヨウちゃんは?」
あたしは近くのコンビニに行くところだったからパーカーにジーンズといった服装だった。しまった!油断していた。ヨウちゃんに会えるなら、もう少し可愛いのを選んだのにな。
俺は今日は予定があってと言い出すと、ヨウちゃんの車から出てきた人がいた。
綺麗に巻いた髪、お化粧をしていて、スカートを履いている美人な大人の女性だった。手にはブランド物のカバン。
「あっ!この子がいつもヨウイチ君が言ってるスズネちゃん?おはよう!」
息を呑む。この人、ヨウちゃんの彼女なんだって言わなくてもわかった。喉が焼けるように熱くなった。声が出ない。
「そうそう。隣の家のスズネだよ。こっちは………」
ヨウ君が私に女性を紹介しようとする。隣の家のヨウ君のお母さんが出てきて、あら?と言う。
「みんな、揃って玄関先で何してるの?家にあがったら?スズネちゃんもどうぞ」
声をかけてもらったのに、体が動かない。顔が下を向く。
「スズ、どうした?」
そのなんでもないような声をかけてきたヨウ君に無性に腹がたった。あたしの気持ちを知ってるくせに!バッと顔をあげた。
「あたしの方がずーーーーっと前から好きなのに!ヨウ君のことほんとにほんとに大好きなのに!誰よりも負けないくらい好きなのに!どうして!?あたし、いつまでも子どもで、追いつけないの?」
思わずカッとなって言ってしまう。
「ええっ!?なに、いきなり言って………おいっ!スズーーっ!」
驚くヨウ君を無視して、身を翻して、駆け出す。涙がポロポロ出てくる。こんな涙でひどい顔を、あんな綺麗な女の人に見られたくないと思った。悔しくて悲しくて走る。
あたしの777回目の告白はラッキーセブンじゃなくて、アンラッキーセブンだった。
「おーい!待てよ!」
ヨウちゃんは足が速い。しばらくすると追いつかれてしまった。腕を掴まれた。
「もう!追いかけて来ないでよっ!ヨウちゃんは綺麗な彼女といればいいわっ!あたしだって、あたしだって……もっと早く大人になりたかった!」
涙でぐしゃぐしゃの顔はあげれなかった。
「あのなぁ……今から、会社のやつらと花見なんだよ。俺が車を出すから、乗り合わせて行くかって話になって、あの人は会社の先輩なんだけど……」
え………!?
「あたしの勘違い?」
「話、最後まで聞けよ。相変わらず、そそっかしいなぁ。ほら。帰ろう」
手を差し出してくれる。繋いだ手は昔と同じように温かい。まだ涙が止まらなくて、グスっと子供みたいに鼻をすする。ヨウちゃんがポケットからハンカチを出す。あたしは涙を拭き、歩きながら言った。
「ヨウちゃん、好きです」
「うん。昔から、知ってるよ。俺、スズがせめて高校卒業するまで待とうと思ってたんだ」
だって、俺、捕まるだろ!とヨウちゃんはそう冗談っぽく言って、笑った。
あたしはいつもと違う返事が返ってきて、驚きで、涙と足が止まった。
「高校卒業するまで、待つから、慌てないで大人になれ。今しかない時を楽しめよ。ちゃんと俺は待ってるよ。そのスズの真っ直ぐな性格が好きだよ」
次に続けたヨウちゃんの言葉は、真剣で、真面目だった。さっきとは違う涙が滲んできた。
「うん。あたしもヨウちゃんのこと好き。待っててほしい。ヨウちゃんに素敵な人だって思われるような大人になるから、追いかけていくから……もう少し待って……ください」
あたしはそう言ってお願いした。ヨウちゃんは「待ってるよ」と安心させるように繰り返し言ってくれる。
こんなグズグズ泣くような人ではダメと自分でも恥ずかしくなってきた。ちゃんとヨウちゃんの隣に立っても恥ずかしくない女性になりたい。
777回目はアンラッキーだったけど、778回目はラッキーだったあたしの恋。
これからも好きって言わせてくれる?
ヨウちゃんと手を繋いで、歩く帰り道、桜の花びらがふわりと風に舞って青い空に飛んでいった。
7歳年上の隣の家のヨウ君。幼稚園の頃からの初恋。爽やかな笑顔でおはよう!って挨拶してくれるし、いつも遊んでくれる大好きなお兄ちゃんだった。
幼稚園児のあたしは素直な気持ちのまま、真っ直ぐに「ヨウちゃん、大好き!」と伝えていた。
小学生になってもヨウちゃんのとこが、好きで毎年バレンタインチョコもあげたし、朝だろうが、夜だろうが、出会うたびに「今日もカッコいい!大好きー!」と、告白も繰り返してきた。
言われたヨウちゃんは否定するわけでもなく、気持ちを受け止めてくれるわけでもなく、「ハイハイ……」「また、言ってるの?」「おはよう」「わかったよ」なんて相づちを打つような返事をし、軽〜く受け流すのだった。
「スズ、あんまり好き好きって簡単に言っていると、軽い言葉になって、相手は本気だと思えなくなるよ」
そう言われたのは、小学校6年生の時だった。確かに好きと言うのが、日課のような、挨拶がわりのようになっていた。
この頃、ヨウ君はブレザーの制服が似合う高校生だった。確かにそうかもしれないと思って、あたしは好きと伝えることを少しためらうようになってきた。
大学生になったヨウちゃんは、やっぱり変わらず、かっこよくて優しくて、時々、勉強も教えてくれた。中学生だったあたしはその頃も、ずっと好きで居続けた。
好きと言った回数を数え始めてから、もう776回になる。
小学生の頃に好き!と挨拶のように言っていたのをカウントしていいのか、どうかわからないけど、とりあえず回数だけはスゴイ!と自分を褒めてあげたくなる。
後、一回でラッキーセブンじゃない?この一回を大切にとっておいて、奇跡起こしちゃう!?そんなことを考えてワクワクしたり、ヨウちゃんの彼女になった自分を妄想したりした。
高校生になった私はやっぱりヨウちゃんが好きだったけど、社会人になった彼は、急に大人に見えて、どこか近寄りがたくなった。仕事で帰る時間も遅くなって、なかなか会えなくなっていった。
4月にしては暑いくらいの陽気の日、ひさしぶりに日曜の朝、ヨウちゃんに出会った。背が高くて、ポロシャツに腕時計をし、少しラフな格好している大人のヨウちゃん。やっぱりいつ見ても、ドキドキする。
「おはよう。スズ、どこか行くのか?」
「おはよう。お母さんに買い物頼まれたから行くところ。ヨウちゃんは?」
あたしは近くのコンビニに行くところだったからパーカーにジーンズといった服装だった。しまった!油断していた。ヨウちゃんに会えるなら、もう少し可愛いのを選んだのにな。
俺は今日は予定があってと言い出すと、ヨウちゃんの車から出てきた人がいた。
綺麗に巻いた髪、お化粧をしていて、スカートを履いている美人な大人の女性だった。手にはブランド物のカバン。
「あっ!この子がいつもヨウイチ君が言ってるスズネちゃん?おはよう!」
息を呑む。この人、ヨウちゃんの彼女なんだって言わなくてもわかった。喉が焼けるように熱くなった。声が出ない。
「そうそう。隣の家のスズネだよ。こっちは………」
ヨウ君が私に女性を紹介しようとする。隣の家のヨウ君のお母さんが出てきて、あら?と言う。
「みんな、揃って玄関先で何してるの?家にあがったら?スズネちゃんもどうぞ」
声をかけてもらったのに、体が動かない。顔が下を向く。
「スズ、どうした?」
そのなんでもないような声をかけてきたヨウ君に無性に腹がたった。あたしの気持ちを知ってるくせに!バッと顔をあげた。
「あたしの方がずーーーーっと前から好きなのに!ヨウ君のことほんとにほんとに大好きなのに!誰よりも負けないくらい好きなのに!どうして!?あたし、いつまでも子どもで、追いつけないの?」
思わずカッとなって言ってしまう。
「ええっ!?なに、いきなり言って………おいっ!スズーーっ!」
驚くヨウ君を無視して、身を翻して、駆け出す。涙がポロポロ出てくる。こんな涙でひどい顔を、あんな綺麗な女の人に見られたくないと思った。悔しくて悲しくて走る。
あたしの777回目の告白はラッキーセブンじゃなくて、アンラッキーセブンだった。
「おーい!待てよ!」
ヨウちゃんは足が速い。しばらくすると追いつかれてしまった。腕を掴まれた。
「もう!追いかけて来ないでよっ!ヨウちゃんは綺麗な彼女といればいいわっ!あたしだって、あたしだって……もっと早く大人になりたかった!」
涙でぐしゃぐしゃの顔はあげれなかった。
「あのなぁ……今から、会社のやつらと花見なんだよ。俺が車を出すから、乗り合わせて行くかって話になって、あの人は会社の先輩なんだけど……」
え………!?
「あたしの勘違い?」
「話、最後まで聞けよ。相変わらず、そそっかしいなぁ。ほら。帰ろう」
手を差し出してくれる。繋いだ手は昔と同じように温かい。まだ涙が止まらなくて、グスっと子供みたいに鼻をすする。ヨウちゃんがポケットからハンカチを出す。あたしは涙を拭き、歩きながら言った。
「ヨウちゃん、好きです」
「うん。昔から、知ってるよ。俺、スズがせめて高校卒業するまで待とうと思ってたんだ」
だって、俺、捕まるだろ!とヨウちゃんはそう冗談っぽく言って、笑った。
あたしはいつもと違う返事が返ってきて、驚きで、涙と足が止まった。
「高校卒業するまで、待つから、慌てないで大人になれ。今しかない時を楽しめよ。ちゃんと俺は待ってるよ。そのスズの真っ直ぐな性格が好きだよ」
次に続けたヨウちゃんの言葉は、真剣で、真面目だった。さっきとは違う涙が滲んできた。
「うん。あたしもヨウちゃんのこと好き。待っててほしい。ヨウちゃんに素敵な人だって思われるような大人になるから、追いかけていくから……もう少し待って……ください」
あたしはそう言ってお願いした。ヨウちゃんは「待ってるよ」と安心させるように繰り返し言ってくれる。
こんなグズグズ泣くような人ではダメと自分でも恥ずかしくなってきた。ちゃんとヨウちゃんの隣に立っても恥ずかしくない女性になりたい。
777回目はアンラッキーだったけど、778回目はラッキーだったあたしの恋。
これからも好きって言わせてくれる?
ヨウちゃんと手を繋いで、歩く帰り道、桜の花びらがふわりと風に舞って青い空に飛んでいった。