📚 本に恋して 📚    第七回:『心の窓』 沢木耕太郎著
⑤『瞳の少女』
(インドのブッタガヤで出会ったひとコマ)

大きくて美しい瞳で見つめている少女に目を奪われます。
でも、その表情には何の感情も浮かんでいません。
喜怒哀楽の欠片もないのです。

読んで、その理由がわかりました。
彼女は極貧の家に生まれたため、満足に教育を受けられません。
そこで、同年代の少年少女と暮らすために、アシュラムという一種の共同体に引き取られたのです。
つまり、幼くして、家族と引き離されたわけです。
不安で仕方がないはずです。声を出せないほど緊張しているかもしれません。顔になんの表情も浮かんでいないのは、当然なのです。

この子はこれからどういう人生を送っていくのでしょうか。
とても気になります。

インドでは、いまだに身分制度が厳然と残っています。
カースト制度です。
・バラモン(司祭階級)
・クシャトリア(王侯・武士階級)
・バイシャ(庶民階級)
・シュードラ(隷属民)
の四つです。
でも、これだけではないようです。
シュードラの下にはカーストにも組み込まれないアウトカースト(不可触民)がいるのです。

現在、この制度は法律で禁じられていますが、その風習はいまだに根強く残っており、インド社会に暗い影を残しています。
世界最大の人口を抱え、日本を抜いてGDP世界第4位になろうとしているインドですが、この問題の解決なしには、世界で指導的な役割を果たしていくのは難しいのではないでしょうか。

インドだけではありません。身分制度のない日本でも気になることが顕在化してきています。
親ガチャ、です。
どのような親の元に生まれてくるかによって人生が決まってしまう、という意味で使われている言葉です。

国民総中流という言葉が消えて久しくなります。
貧しい家の子供は教育が十分に受けられず、その結果、報酬の高い仕事に就けず、みじめな人生を送らざるを得ないのに対して、裕福な家に生まれた子供はその反対で、豊かな人生を送ることができるという格差社会に突入しているのです。

実際、東大に入学した人の6割以上が『親の年収が950万円以上』というデータがあります。親が裕福でないと良い大学に行けなくなっているのです。

親が貧乏なほど、子供の未婚率が高いというデータもあります。
貧乏な家に生まれた子供は結婚もできない状態になっているようです。

すべての人が金持ちになるのは難しいと思いますが、
せめて、『機会の平等』だけは保証される社会であってほしいと思います。
懸命に努力すれば結果が付いてくる、という夢のある未来がすべての人の前に開けている社会になって欲しいと思います。


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