📚 本に恋して 📚 第七回:『心の窓』 沢木耕太郎著
⑧『坊やに完敗』
(フィンランドのヘルシンキの繁華な通りでのひとコマ)
赤い風船を左手に持った小さな男の子が、路上のパフォーマー(昔は大道芸人と呼ばれていました)を一心に見つめています。
グレーのニット帽を目深に被った男の子の右手にはウサギの縫いぐるみあり、地面に足をつけるような形になっています。
男の子が熱心に見始めると、ひとり、またひとりと、通行人が足を止め始めました。そして、瞬く間に人垣ができたのです。
その時、著者は唇を噛んだのだそうです。
負けたと。
実は、男の子が近寄るちょっと前に著者が1ユーロのコインをボックスに投げ入れたのですが、その時は誰も足を止めなかったのです。
でも、その直後に小さな男の子が見入った途端、人が集まり出し始めました。
通行人を立ち止まらせるという役回りにおいて著者は完敗したのです。
ですが、パフォーマーにとっては喜ばしい状態になりました。
足を止める人が多ければ多いほどチップを期待できるからです。
男の子は、すぐに母親に連れて行かれましたが、その後も人垣は崩れませんでした。
「ありがとう、坊や」
後姿にかけるパフォーマーの声が聞こえてきそうです。
(フィンランドのヘルシンキの繁華な通りでのひとコマ)
赤い風船を左手に持った小さな男の子が、路上のパフォーマー(昔は大道芸人と呼ばれていました)を一心に見つめています。
グレーのニット帽を目深に被った男の子の右手にはウサギの縫いぐるみあり、地面に足をつけるような形になっています。
男の子が熱心に見始めると、ひとり、またひとりと、通行人が足を止め始めました。そして、瞬く間に人垣ができたのです。
その時、著者は唇を噛んだのだそうです。
負けたと。
実は、男の子が近寄るちょっと前に著者が1ユーロのコインをボックスに投げ入れたのですが、その時は誰も足を止めなかったのです。
でも、その直後に小さな男の子が見入った途端、人が集まり出し始めました。
通行人を立ち止まらせるという役回りにおいて著者は完敗したのです。
ですが、パフォーマーにとっては喜ばしい状態になりました。
足を止める人が多ければ多いほどチップを期待できるからです。
男の子は、すぐに母親に連れて行かれましたが、その後も人垣は崩れませんでした。
「ありがとう、坊や」
後姿にかけるパフォーマーの声が聞こえてきそうです。