妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

1.心地良い生活

 ヴェレスタ侯爵アドラス様との結婚は、喜ばしいこととは言えないだろう。
 もちろん、フォルファン伯爵家としては、侯爵家との婚約は利益であるといえる。ただ、これはヴェレスタ侯爵夫人が早逝したことでもたらされた結婚だ。この結婚の裏には、深い悲しみがあるということは、決して忘れてはいけないことである。

「フェレティナ、少し良いだろうか?」
「はい、なんですか、アドラス様」
「ロナーダ子爵と領地間の道の整備について話すことになった。いつもは、あちらの方から来てもらっているのでな。偶にはこちらから訪ねることにする。故に、しばらく家を留守にすることになるのだが……」
「わかりました。家のことはお任せください」

 アドラス様は、とても紳士的な方だった。
 彼は私のことをいつも気遣ってくれている。それは私にとっては、嬉しいことだ。
 後妻ということもあって、色々と心配な面もあったが、今の所は特に問題も起こっていない。順風満帆な生活を送れているといえる。

「いつもすまないな。いや、本当に助かっている。君を妻に迎えられたことを嬉しく思っているよ」
「……急にどうされたのですか?」
「改めてお礼を言いたくなったのだ。君が来てから、もう一か月になるだろう。それが区切りという訳でもないが、ありがとうと言っておきたい」
「いえ、私は別に特別なことはしていません。侯爵夫人として、当たり前のことをしているだけですから」

 アドラス様が唐突にお礼を述べたため、私は少し驚いてしまった。
 しかしもちろん、悪い気はしていない。とても嬉しく思っている。

 ただ気になるのは、どうしてそんなことを言ってきたのかということだ。
 私はそこに、少し違和感を覚えていた。だが、それは些細なことだろう。偶然そういう気持ちになったのかもしれないし、深く考えても仕方ないことだ。

「それに感謝するのはこちらの方です。アドラス様は、私のことを温かく迎えてくださいました。本当にありがとうございます。感謝しています」
「それこそ当然の義務といえる」

 私は、アドラス様にお礼を述べておいた。
 いい機会なので、私の方からもそうするべきだと思ったのだ。
 それに対して、アドラス様は笑ってくれている。その笑顔を見ていると、私の方も自然と笑みが零れていた。

「さて、それではそろそろ行ってくる。後のことは任せる」
「ええ、いってらっしゃいませ、アドラス様」

 私はゆっくりと一礼して、アドラス様のことを見送った。
 彼のいない間、しっかりと家を守らなければならない。私はそう思いながら、気を引き締めるのだった。
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