妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

11.彼の優しさ

 私とアドールは、とりあえずヴェレスタ侯爵家の屋敷に戻って来ていた。
 お兄様は、今回の件をフォルファン伯爵家に報告しに帰った。よって、ここにいるのは私とアドールだけだ。
 当主であるアドラス様がいなくなったことによって、やらなければならないことは色々とある。まず何からするべきなのか、私は考えていた。

「……フェレティナ様、本当によろしかったのですか?」
「……何の話かしら?」

 そんな時、アドールが神妙な顔をしながら私に質問をしてきた。
 その質問に、私は少し鋭い声を返してしまった。我ながら、嫌々しい態度だと思ってしまう。
 しかし、こればかりは仕方ないことなのだ。今のアドールの質問は、愚問でしかないのだから。

「ハルベルク様と一緒にフォルファン伯爵家に戻らなくても、良かったのかと聞いているのです。あなたは、このヴェレスタ侯爵家にこれ以上付き合う義理なんてないはずだ」
「……」

 私の言葉に対して、アドールも少し声を荒げて言葉を返してきた。
 それは彼の心からの言葉であるように思える。少なくとも港で取り繕っていた時とは違う。

「勘違いをしているようだけれど、私はまだヴェレスタ侯爵夫人よ? アドラス様とは離婚していないもの」
「そんなことは、どうにでもなることでしょう。僕を見捨てて逃げた所で、非難されることはありません。僕だってあなたを責める気はない。この状況なら、誰だってそうする」

 アドールの本心が聞けるということは、私にとっても嬉しいことだった。
 できることなら、本音が聞きたいと思っていた所だ。このままずるずると引っ張られると、こちらとしてもどうしていいかわからなかっただろう。
 ただ本音が聞けるなら、それに対して言葉をかけることができる。重要なのは対話することだ。私はアドールときちんと話し合えることに感謝する。

「あなたは見捨てて欲しいのかしら?」
「そういう訳では、ありませんがっ……フェレティナ様に、迷惑をかけたくはありません」
「迷惑ね……」

 アドールの根底にあるのは、私に対する気遣いであるのだろう。
 私をこれから起こるヴェレスタ侯爵家のごたごたに巻き込みたくない。彼はきっと、そんな風に思っているのだろう。
 その気持ちは、素直に嬉しい。しかしながら、私はそんな彼の優しさを打ち砕かなければならないだろう。

 こんな状態のアドールを放っておく訳にはいかない。
 曲がりなりにも、彼とは家族として過ごしてきた。少なくとも私は、彼を一人残してここから去りたくないと思える程の情がある。
 だからこそ、ここは強引にでも彼を捻じ伏せるべきなのだ。私はそう判断して、改めて目の前にいるアドールと向き合うのだった。
< 11 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop