妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

12.強引にでも

「アドール、あなたはどうやら何もわかっていないようね?」
「……なんですって?」

 決意を固めた私は、アドールのことを睨みつけた。
 ここでは、彼に対する親愛の情を一旦捨てなければならない。非情に徹して、彼に状況をわからせなければならないのだ。

「あなたは賢いし大人びているけれど、まだ子供なのよ? そんなあなたが一人で残った所で、ヴェレスタ侯爵家を守ることなんてできないわ」
「それは……」

 私の言葉に、アドールはこちらからゆっくりと目をそらした。
 当然のことながら、彼もわかってはいるようだ。自分一人では、このヴェレスタ侯爵家を守ることができないと。
 となると彼は、この侯爵家が終わってもいいと思っているということだろうか。いや、そういうことではないはずだ。アドールは単に、諦めているだけなのだろう。

「まさかとは思うけれど、あなたはこのヴェレスタ侯爵家がどうなってもいいなんて、思っている訳ではないわよね?」
「そんな訳はありません。僕も、先祖達が代々守ってきたこの侯爵家を守っていきたいと思っています。でも、それは僕がやるべきことです。フェレティナ様を巻き込んでいいようなことではない……」
「やはりあなたは何もわかっていないようね……」

 私は、ゆっくりとアドールとの距離を詰めた。
 彼にはきちんと言い聞かせておかなければならない。これは今回の件に限らず、彼がこれから侯爵として生きていくためには把握しておいた方がいいことだ。

「アドール、侯爵といえども、全てのことが完璧にこなせるという訳ではないわ。時には人を頼る必要があるものなの」
「それは理解しています」
「いいえ、わかっていないわ。今のあなたは、私を頼る以外の道なんて考えるべきではないのよ。私のあなたに対する情を利用すればいいだけなの」
「情を、利用する……?」

 私はアドールの肩に手を置いて、彼と視線を合わせた。
 その目は心なしか、少し潤んでいるような気がする。流石に少し、怖がらせ過ぎてしまっただろうか。
 しかしこれは、仕方ないことだ。これからのためにも、アドールにはきちんとわかってもらわなければならないのだから。

「そんなことはできません。だって、そんなのひどい話ではありませんか」
「あなたは次期侯爵なのよ? それくらい強かでいなければ、どうするのよ?」
「強か……」
「まあ、私のことが信頼できないと思っているなら、話は別だけれどね?」
「いえ、そんなことは……」
「それなら決まりね」

 私は、強引に話を取りまとめた。
 今はまだ、アドールも完全に理解できていないかもしれない。
 しかしきっといつかわかってくれるはずだ。今は私を頼るべき時だったということを。
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