妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

13.必要な休息

 有無を言わせずヴェレスタ侯爵家に残った私は、色々と書類などを準備した。
 これから、各所に色々な通達をしなければならない。そのためにする準備の量は膨大だった。とてもではないが、今日中にまとめることなどはできない。

 そう判断した私は、切りがいい所で切り上げて休むことに決めた。
 このまま夜通しで作業して、倒れたりしたら問題である。それならいっそのこと休んで、明日に作業を持ち越した方がいい。そう判断したのだ。
 もちろん、早急に出すべき重要な書類はもう仕上げてある。最低限ではあるが、とりあえずそれでなんとかなるだろう。

 もっとも、今回私が休むことを選んだ理由は、実の所別のことが主な要因だ。
 私が作業している間、アドールはずっとその手伝いをしていた。色々とあって、疲れているにも関わらず。
 そんな彼を休ませるべきだと思った。そのためにはまず私が休むことによって、示さなければならなかったのである。

「といっても、私はとても疲れているのよね……」

 自室に戻った私は、ベッドの上に寝転がっていた。
 今日の出来事は、私の人生を大きく変える出来事だったといえるだろう。これからのことを考えると、少し億劫になってくる。

 ただ、自分の選択に後悔などはない。私はアドールを一人にしたくないと思っている。それは理屈などではなく、ただ感情の問題だ。
 両親やお兄様は、反対するだろうか。それは少し心配だ。
 とはいえ、今回のことには私達にも責任があるといえる。そう反対するとは思えない。もっとも、仮に反対されたとしても、自分の考えを曲げるつもりなんてないのだが。

「……失礼します」
「あら……」

 色々と考えながらベッドの上でうとうとしていると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
 声からして、訪ねて来たのはアドールであるだろう。一体どうしたのだろうか。今日はもうこのまま、休みたい所なのだが。

「アドール、何か用かしら?」
「あ、いえ、夜分遅くに申し訳ありません」
「それはいいのだけれど、どうかしたの?」

 私が部屋の戸を開けると、アドールは少し目線をそらした。
 心なしか、顔も赤い。彼にしては、少し珍しい反応である。

「……まあ、とりあえず入って」
「し、失礼します」
「……あら」

 部屋にアドールを招き入れながら、私は彼が枕を抱いていることに気付いた。
 もしかしてこれは、一緒に寝たいとかそういったことなのだろうか。
 普段は大人びていても、アドールはまだまだ子供だ。父親を失った不安で、私を訪ねて来たのかもしれない。
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