妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

16.突然の訪問者

 結局昨日は、アドールとそれ程言葉を交わしたりしなかった。
 私達は寝転がってお互いの顔を見ている内に、自然と眠りについていたのだ。
 それはなんとも、不思議な話である。その前までは、眠れなかったというのに。

「えっと、あなたは……」
「……まずは自己紹介からですね。私は、ロナーダ子爵家の次男リヴェルトと申します。本日は父上の命令で訪問させていただきました」

 そんな一夜が明けてから、ヴェレスタ侯爵家に訪問者が来た。
 その人物に自己紹介されて、私は少し固まっていた。ロナーダ子爵のご子息が、どうしてこちらを訪問して来たのかわからなかったからである。

 確か、領地間の道の整備に関する問題は終わっているはずだ。ロナーダ子爵から聞いたのだし、それは間違いない。
 いや、何か新たな問題が発生したというなら、その限りではないだろうか。しかしなんとも、タイミングが悪い。今そんな問題が降りかかって来るなんて、参ってしまいそうだ。

「ロナーダ子爵の命令、ですか……もしかして、領地間にある街道などの話でしょうか?」
「いえ、そういう訳ではありません。ヴェレスタ侯爵夫人、その……あなたは何か困っているのではありませんか?」
「え?」

 リヴェルト様は、何やら抽象的な質問をしてきた。
 もちろん、困っているといえば困っている訳ではあるが、夫が妹と駆け落ちしたなんて聞かされても、彼も困るはずである。
 となると、この質問には何か他の意図があると考えるべきだろうか。ただ正直、考えてもわからないので早く答えを教えてもらいたい所である。

「どういうことですか?」
「……まあ、困りますよね。実の所、私も困っているのです。父上は非常に抽象的なことを言ってきました。あなたが困っているような気がするか、助けに行ってこいと」
「なるほど……」

 困惑しているのは、リヴェルト様も同じだったようだ。
 ただ、今の言葉で事情は理解できた。これは私と先日話したロナーダ子爵によって、もたらされた訪問なのだと。
 人格者として名高い彼なら、そうすると考えられる。それは普通に、ありがたい話だ。

「……困っていることがないと言ったら、嘘になりますけれど」
「おや、それでは父上の推察もあながち間違っているという訳では、ないということですか?」
「ええ、そうですね。実の所、ロナーダ子爵と会った時から困っていたんです。正確に言えば、ロナーダ子爵と会ったことで困った事実を認識したということですか?」
「えっと……」

 とりあえず私は、リヴェルト様に事情を話してみることにした。
 見た所彼も人が良さそうだし、上手くいけばロナーダ子爵家の協力を得られるかもしれない。
 故に私は、相手が同情するように少し大袈裟に事情を話すのだった。
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