妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

2.良好な関係

「父上がロナーダ子爵家に、ですか?」
「ええ、しばらく留守にするみたいなの」
「そうですか……」

 アドラス様が出て行ってから、私はある人の部屋を訪ねていた。
 その人物とは、アドラス様と前妻との子供であるアドールだ。
 父親が家を開けて、使用人がいるとはいえ継母と二人きりで過ごすことになるため、念のため声をかけておくべきだと思ったのだ。

「えっと、アドールはそのことを知らなかったのかしら?」
「ええ、今フェレティナ様から聞きました」
「そうなのね……」

 少し想定外だったのは、アドールがこのことについて何も聞いていなかったことだった。
 てっきり、私よりも先に息子に伝えたものだと思っていた。私と二人きりで過ごすことになる訳だし、アドラス様なら息子としっかりと話し合っていそうなものなのだが。
 とはいえ、親子とは言えないながらも、私とアドールの関係は悪いという訳ではない。その辺りを考慮して、私に伝えさせることを選んだということだろうか。

「まあ父上も、あれで抜けている所がありますからね。僕に伝えることは失念していたのかもしれません」
「抜けている……そうなの? 私からしてみれば、そんな風には見えないのだけれど」
「父上も格好つけているのでしょう。化けの皮という程ではありませんが、きっとすぐに父上の素がわかると思いますよ」

 アドールは、少し悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
 基本的に真面目な彼も、こと父親については中々に辛辣なことを言う。
 そういった所は、家族故の気軽さということだろうか。私もいつか、そうなるといいのだが。

「しかし父上がいないというなら、僕も少し気を引き締めなければなりませんね。一応、これでも次期ヴェレスタ侯爵ですから」
「一応も何も、アドールが次期ヴェレスタ侯爵であることは紛れもない事実じゃない」
「父上とフェレティナ様の間に男児ができたら、その限りではありませんよ」

 アドールは、少し卑屈に笑っていた。
 この子はなんというか、年齢の割に大人びている所がある。それは良いことでもあるし、悪いことであるように思える。
 特にこういった時は顕著だ。彼は少し、難しく考え過ぎてしまっている。

「あなたが長男であることは変わらないのだから、基本的にはあなたが家を継ぐわよ。問題なんかを起こさなければだけれど」
「問題、ですか……それはもちろん、そんなつもりはありませんが」

 私は、少し茶化しながらアドールを宥めた。
 言っていることは、紛れもない事実である。余程のことがなければ、彼が家を継ぐことは揺るがない。
 私もそれでいいと思っているし、反発する人なんていないだろう。それをわかってもらえると、いいのだが。
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