妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

30.王女の性質

「エメラナ姫、今なんとおっしゃっいましたか? 多分、私の聞き間違いだとは思うんですけれど……」
「私は、面食いなんです……ああいえ、表現が適切ではありませんね。美的価値観というものは人それぞれですから」
「いえ、まあ、それはそうですが……」

 私の質問に、エメラナ姫は笑顔で答えてくれた。
 あまり受け入れたくないことではあるが、彼女は確かに面食いだと言っているらしい。要するに綺麗な人とかが好き、ということだろうか。

 自分が綺麗かどうかは、とりあえず一旦置いておくとしても、王族である彼女がなんということを言っているのだろうか。
 その俗っぽい言葉は、どこで覚えたのか気になる所だ。本で読んだりしたのだろうか。ただ何かしらの悪影響があったことは、間違いなさそうだ。

「まあ要するに、私は自分の好みの顔の女性の前だと、緊張してしまうんです。段々と慣れてきたので、今はなんとか平静に話せていますが……」
「女性……えっと、男性は範囲外なのですか? ここにいるリヴェルト様なんかも、中々にかっこいいと思うのですが」
「男性については、もうそれ以上がないという方に出会っていますから。昔は男性でも固まっていましたが、今はもう大丈夫です」

 エメラナ姫は、そっとアドールの方に視線を向けていた。
 それによって、私は理解する。エメラナ姫が、どれだけアドールに対して想いを向けているのかということを。
 根本の性質を覆すくらい惚れ込んでいるというのは、すごいことであるように思える。

「なるほど、エメラナ姫は素敵な恋をなさっているようですね」
「フェレティナ様にそう言ってもらえるのは、とても嬉しいです。あ、でも、そうですね。せっかくですから、一つご提案したいことがあります」

 そこでエメラナ姫は、少し身を乗り出してきた。
 その動作からは、逸る気持ちのようなものが伝わってくる。
 その内容は、なんとなく想像することができた。話の流れからして、恐らくアドールとのことで間違いないだろう。

「フェレティナ様、私とアドールとの婚約を認めてくださいませんか?」

 エメラナ姫が口にしたことは、概ね私が予想していた通りのことだった。
 彼女の想いの大きさは、先程の言葉所か一連の行動から理解できることではあった。そんな彼女が、そういった提案をするのは必然であるといえる。
 私は、そっとアドールの様子を伺った。彼は微妙な表情をしている。どうやら婚約の提案に対して、色々と思う所があるようだ。
< 30 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop