妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

31.王女の提案

「アドールとの婚約、ですか……」
「ええ」

 私はとりあえずエメラナ姫の言葉に返答しながら、アドールの様子について考えていた。
 彼は今、何を考えているのだろうか。それは気になる所だ。浮かない顔をしている所を見ると、この婚約を歓迎しているという風ではないように見えるのだが。

「悪い提案という訳では、ないと思うんです。もちろん、今のままでも私はアドールの味方であるつもりですけれど、お父様に頼むのにも限界があります。ですが、暫定的にでも身内ということになれば話は別です」
「そうですね。とても利益がある婚約だと思います」
「私が頼めば、婚約を認めさせることはできると思います……いいえ、そこは私が絶対に認めさせます」

 エメラナ姫は、真っ直ぐに私の方を見つめていた。
 アドールがヴェレスタ侯爵を引き継いだとはいえ、決定権は私にあると考えているのだろう。

 実際の所、私はアドールの暫定的な後見人だ。現在の侯爵家の実務については、私が主体となって行っている。
 だからこれについても、私が判断を下すということでもいいのだろう。
 正直な所、断る理由なんてものはない。私が私だけで判断を下すというなら、迷わず頷くだろう。

「……アドール、あなたはどのように思っているのかしら?」
「え?」

 だが私は、アドールに意見を伺うことにした。
 これは私だけで決めるべきことではない。そう思ったのだ。
 ただ、アドールは面食らったような顔をしている。彼の方は、意見を求められるとは思っていなかったということだろう。

「フェレティナ様、僕は別に……」
「私は、あなたの意見を聞きたいと思っているわ」
「……そうですか。いえ、そうですね」

 遠慮していたアドールは、私の言葉に目を見開いた。
 彼も思い出したのだろう。私達の関係が、単純なものではないということを。
 私だけの判断でアドールの今後を決めたりするつもりはない。子供だからとかそんなことは関係なく、私は彼の判断を尊重したいのだ。

「エメラナ姫、という訳ですので、アドールの意見も聞いていただけますか?」
「え、ええ、私もそれは望む所ですけれど……」

 私が声をかけると、エメラナ姫は少し緊張した面持ちを返してきた。
 好意を抱いている相手から、言葉をかけられるとなれば、それはもうとても緊張するだろう。それに関しては、彼女に申し訳ない。
 ただきっと、彼女だって聞きたいはずではある。アドールの気持ちについては、ともすれば私よりも、エメラナ姫の方が気になっているかもしれない。
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