妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

34.聞きたかったこと

 しばらくしてから、エメラナ姫は客室に戻って来た。
 ただ、その機嫌は良いものであるとは言い難い。多少は落ち着いたものの、まだ怒りや悲しみは収まっていないようだ。

「アドール、さっきはごめんなさい」
「え?」
「私、あなたにひどいことを言ってしまったから。別に、怒っている訳じゃないから」

 エメラナ姫は、アドールに対して頭を下げた。
 一応、先程のことは水に流そうとしているらしい。態度に現れてしまっているのが難点ではあるが、その辺りは経験不足故の未熟さということだろう。

「いいえ、エメラナ姫は悪くありません。先程の僕は、愚かなことを言っていましたから」
「……そうなの?」
「ええ、エメラナ姫が聞きたかったのは、そういった事柄ではなかったのですよね? すみません、僕は勘違いしていました」
「……聞きたくなかった訳ではないかな。もっと聞きたかったことが、聞けなかったというだけで」

 頭を冷やすと言っていた通り、エメラナ姫はかなり冷静になっていた。
 少なくとも、アドールとの話には応じるつもりであるようだ。これなら、アドールは上手くやってくれるだろう。そう思って、私は口を挟まないでおく。

「エメラナ姫、あなたからの提案を僕は嬉しく思っています。未来のことなんてわからないけれど、エメラナ姫が僕の奥さんになってくれるなら、それは喜ばしいことです」
「……どうして喜ばしいの?」
「それは……僕がエメラナ姫に対して、好意を抱いているから、ということになるでしょうか」

 アドールは、エメラナ姫から視線をそらしていた。流石に恥ずかしかったということだろう。
 一方で、言葉を受けたエメラナ姫は目を輝かせている。アドールの言葉に、感激しているようだ。今にも涙が零れ落ちてきそうである。

「アドール、嬉しい。私もアドールと同じ気持ちだよ」
「同じ気持ち……」
「うん。アドールに好意を抱いている。だからやっぱり、私と婚約して欲しい」
「……それとこれとは話が別です。僕はエメラナ姫に好意を抱いているからこそ、婚約して苦労させたくはないと考えています」
「アドール……」

 言葉を発しながら、アドールはエメラナ姫のことを真っ直ぐに見つめていた。
 その目には、彼の覚悟のようなものが現れているような気がする。立派なものだ。自分の置かれた状況を冷静に分析して、その上でエメラナ姫にとって良い選択をしようとしている。
 しかし、アドールが覚悟を決めているように、エメラナ姫だって覚悟を決めているのだ。まるで応えるかのように真剣な顔をした彼女に、私は王女としての気品と誇りを感じていた。
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