妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

36.誇りたいこと

「エメラナ姫、あなたの気持ちはよくわかりました。その上で僕は、改めて答えを出しました」
「……うん」
「僕はあなたのことを、婚約者として迎え入れたいと思います。僕にはあなたの助けが、必要なようですから」
「……うん!」

 アドールの言葉に、エメラナ姫は嬉しそうに頷いた。
 彼の出した答えは、良いものであると私は思う。どちらかというと、私が望んでいた答えだ。
 ただその答えの傍らで、私は自らの心の中にある不思議な気持ちに気付いた。今のアドールがなんというか、自分のことのように誇らしいのである。

 今の私は、胸を張ってアドールのことを自慢したい気持ちでいっぱいだ。
 もちろん場が場なので控える訳ではあるが、私はどうしてしまったのだろうか。なんというか、自分が少し恥ずかしくなってくる。

「フェレティナ様、これが僕の結論です。これでよろしいでしょうか?」
「……ええ、もちろん聞いていたわ。良い結論が出せたと、思っているわ」
「良い結論、そうなのでしょうか?」
「そうは思わない?」

 私はアドールの言葉に対して、エメラナ姫の方を見た。
 彼女は、とても嬉しそうな笑みを浮かべている。アドールに受け入れてもらえたことが、余程嬉しいのだろう。
 貴族としてどうかなどよりも、私にとってはそれが良いことであるように思える。

「まあ、そうですね。自分の決断には自信を持たないと」
「ええ、でも今のあなたは立派だと思うわ。まあ、いつも立派だけれど」

 私は自分の中にあるアドールの評価を、ほんの少しだけ本人に伝えておくことにした。
 褒めるということは、実際に重要なことではあるだろう。今の私の気持ちを全て出すとまずいとは思うが、今のはいいくらいだったはずだ。

「さてと……エメラナ姫、少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい。なんですか? お義母様」
「え?」

 国王様に話を通すまでは、正式な婚約ではない。そのことをエメラナ姫と話そうと思っていた私は、予想外の言葉に面食らうことになっていた。
 今彼女は、私のことを変な呼び方をしたような気がする。いや、別に変ではないのだろうか。私は少し混乱してしまう。

「あ、すみません。少しはやる気持ちが……まだ正式に婚約が決まった訳ではありませんよね。でも、アドールのお母様なのですから、私もそう呼ぶべきかと思って」
「えっと、それは……そうなのかもしれませんね」
「え、ええ、まあ、そういうことになるのかしら?」

 エメラナ姫の言葉に、私とアドールは顔を見合わせることになった。
 お義母様、その呼び方にはどう反応していいのかは、正直わからない。なぜならその呼び方は、アドールにもされたことはないからだ。
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