妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

37.暫定的な婚約

 アドールとエメラナ姫の婚約については、とりあえず暫定的に決まったものだ。
 これからそれを正式なものにしなければならない。そのためにはまず国王様と話さなければならないのだが、忙しい国王様とすぐに話ができる訳でもない。
 という訳で、この話はしばらく先送りということになっている。その間にエメラナ姫も父親を説得すると言っていた。それは私達にとっては、非常にありがたいことだ。

「婚約などはいつかするものだとは思っていましたが、まさかこんなにも早くそういった話が出るとは思っていませんでした」
「まあ、そうでしょうね」

 私とアドールは、例によって夜の話し合いをしていた。
 議題については、アドールの婚約に関することだ。目先の問題であるので、当然話はそういう流れになった。

「でもそういったことは人それぞれよ。アドールみたいな年で決まる子もいるし、私みたいに中々決まらなかった子もいる」
「そういえば、フェレティナ様は遅かったのですね」
「ええ、以前あった縁談が色々とあって破談になってね。それでしばらく、婚約者が決まらなかったのだけれど……」
「父上が縁談を持ち掛けたのですね」

 私の縁談に関して、私自身はそれ程よく知っている訳ではない。
 それはお父様とアドラス様との間に取り決められたことだからである。
 一応話は、アドラス様の方から出したということであるそうだ。彼は前妻を亡くしてから、ずっと妻を探していたらしい。

「……こういうことは言いたくありませんが、父上はきっと僕を置いて行くためにフェレティナ様を選んだのでしょうね」
「え?」
「父上は、フェレティナ様が僕を見捨てないとわかったから結婚したのだと思います。父上はあなたの善性に付け込んだのでしょう」

 アドールは、とても冷たい目をしていた。
 その目からは、父親であるアドラス様への深い怒りが伺える。
 それが誰のための怒りであるかは明らかだ。その気持ち自体は嬉しい。ただ、一つだけ言っておかなければならないことはある。

「アドール、私は別にここにいることに対して、何の後悔もしていないわよ?」
「はい。それはわかっています。でも、やはり父上は許せません。フェレティナ様がここにいてくれることへの喜びとそれは、矛盾していますが、僕の中では両立するものなのです」
「そう……」

 アドールの気持ちは、そんなに簡単なものではないらしい。
 それは当然のことだろう。アドラス様の行動は、アドールの心を深く傷つけているのだから。
 ただ、私がここにいることを喜んでくれているなら、私としてはそれでいい。私はしっかりと寄り添って、アドールの心を癒していくだけだ。
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