妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

40.大切なこと

「お姉様というのも、捨てがたいものではあるわね?」
「そ、そうですか?」
「ええ、言われてみれば、悪くない響きであるような気がする」

 アドールの意図がわかって、私の肩の力は完全に抜けていた。
 お姉様という呼び方も、魅力的なものではある。年齢差を考えれば、そちらの方が良いのかもしれない。いや、姉弟としては離れすぎているだろうか。
 ただ私としては、どちらかというと母親としての気持ちの方が、大きいような気がする。その差は自分でも、よくわからないものなのだが。

「どちらにしても、私はアドールと家族ということよね」
「……ええ、そうですね」

 ただ一つ明確なことは、私とアドールは家族であるということであった。
 血の繋がりなどはなくても、私達には確かな絆がある。それが今、改めて理解できた。
 だから、本当に呼び方なんてものは関係ないのだろう。ただ、せっかくこういった話になった訳だし、違う呼び方をしてもらうのもいいかもしれない。

「まあ、私としては母親の気持ちかしらね。一応、アドラス様と結婚している訳だし、そちらの方が立場としてはしっくりくるのよ。ずっとそういう気持ちだったというか」
「そういう気持ちですか……それならやはり、お義母様、でいいのでしょうか?」
「え、ええ……そうね。それでいいというか」

 アドールは、私をそっと見つめながら母と呼んでくれた。
 それに私は、少し固まってしまっている。思っていた以上に、嬉しかったからだ。

「あ、でも、そうですね。義母上という方が、正しいかもしれません」
「え?」
「いえ、お義母様だとなんというか、甘えている気がしてしまって……」

 そこでアドールは、少し頬を赤らめた。
 言われてみれば、彼はアドラス様のことは父上と呼んでいる。お父様という呼び方ではない。
 恐らく、母親の方は幼少期の呼び方のままだった、ということだろう。呼び方を変える前に亡くなってしまったため、そこから更新されていなかったといった所か。

「まあ、その時々によって変えても良いのではないかしら? 公的な場では義母上でもいいし……そもそも、フェレティナ様のままでも構わないわ。いきなり変えるのも難しいでしょうし、こうした戯れの時とかに呼んでくれるだけでも、私としては嬉しいわ」
「そ、そうですか?」
「ええ、重要なのは私とアドールが、お互いのことを家族だと思っているということだもの」
「それは……そうですね」

 私の言葉に、アドールは笑顔を返してくれた。
 その笑顔を見ていると、心が安らいでくる。きっとそういった気持ちこそが、最も大切なものなのだろう。
< 40 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop