妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

43.言いたかったこと

「お二人の絆は、強固なものですね」

 笑顔を浮かべる私に対して、リヴェルト様はそっとそう呟いた。
 その呟きは、心なしか寂しそうにも聞こえる。それは私の気のせいだろうか。

「その絆というものを、私はとても素晴らしいものだと思っています。だからこそこれからも、お二人の力になりたいと思っています」
「リヴェルト様、ありがとうございます」

 リヴェルト様は、私に対して笑みを向けてきた。
 ただ、それは心からのものだとは思えない。なんとなく陰りがあるような気もする。
 そこで私は、あることに気付いた。そもそもの話、リヴェルト様は別にヴェレスタ侯爵家の内部の人間ではないのだと。

 今の今まで彼にはお世話になってきた訳ではあるが、一体いつまで手を貸してもらえるのだろうか。
 ヴェレスタ侯爵家は、今非常に順調に歩んでいる。アドールは侯爵を継いだし、ストーレン伯爵家の協力は得られ、王家との婚約も結べた。段々と、その基盤は固まっている。

 リヴェルト様の助力は、もしかしたらもう必要ないのかもしれない。
 彼はロナーダ子爵家の次男だ。いつまでも頼ることができる存在ではない。私はそれを、すっかりと失念してしまっていたのだ。

「リヴェルト様、あの……」
「うん? どうかしましたか?」
「その……私は、リヴェルト様にもう少しここにいてもらいたいと思っています」
「それは……」

 私の突然の言葉に、リヴェルト様は面食らっているようだった。
 なんというか、色々と過程を飛ばし過ぎているような気がする。これでは、彼も何を言われているのかわからないだろう。
 もしかして私は、酔ってしまっているのかもしれない。いつもなら冷静な判断が――いや、そんなに冷静沈着という訳でもないか。

「フェレティナ様にそう思っていただけているのは、私としても嬉しい所です」
「そ、そうですか?」
「ええ、しかし、いつまでもここにいられないのも事実です。私はいつか、ロナーダ子爵家に帰らなければなりません。それを少し、寂しく思ってしまいます」
「……私も同じ気持ちです」

 私は、リヴェルト様の言葉にゆっくりと頷いた。
 私が言いたかったのも、要するにそういうことだ。リヴェルト様がいなくなると寂しくなる。それが私は、嫌ということだろう。

 といっても、それは回避することができないことだ。
 リヴェルト様には、随分とお世話になっている。そんな彼に対しては、何か恩返しをしなければならない。
 それこそ、ワインなどがいいのだろうか。しかし私はそういったものには詳しくはない。そもそも彼もそこまで好きという訳ではなそうだ。それなら一体、何がいいのだろうか。
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