妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

46.悪い大人には

「アドール、ごめんなさい」
「え? どうして謝るんですか?」
「いえ、その、私は悪いことをしていたから」

 とりあえず私は謝罪の言葉を口にして、頭を下げた。
 隣では、リヴェルト様も頭を下げている。それにアドールは、当たり前だが困惑しているようだ。

「悪いこと、ですか?」
「ええ、実はリヴェルト様とお酒を飲んでいたの」
「……アドール侯爵令息、ああいや、今は既にヴェレスタ侯爵ですね。全ての責任は、私にあるのです。情けない限りですが、こんな時間にお酒を飲んでいて」
「はあ……?」

 私達の言葉に、アドールは首を傾げていた。
 彼からしてみれば、あまり悪いことだという認識はないのかもしれない。
 ただ、夜中にそういった趣向品を嗜むというのは、良くないことだ。将来、彼が同じようなことをしないためにも、私達はきちんと事情を説明しておかなければならない。

「お二人は大人なのですから、夜中にお酒を飲んでも別に構わないのではありませんか?」
「いいえ、それは悪いことよ。例えば、アドールで考えると……夜中にケーキを食べるというのは、なんとなく行儀が悪いでしょう?」
「ああ、言われてみれば、そうですね」
「そういったことをしてはいけないと言う私達が、こんなことをしていたのは情けない限りね」
「そんなに大袈裟なことなのでしょうか……?」

 アドールは、考えるような仕草を見せた。
 飲んでいたのがお酒ということもあって、まだいまいち理解できていないようだ。

「ふわぁ……あ、すみません」
「ああ、ごめんなさい。もう眠たいわよね?」

 そこでアドールは、あくびをした。
 流石に眠たいということだろう。それなら話は、また後日ということでいいのかもしれない。
 とにかく今は迅速に、寝る準備をするべきだろう。そんなことを思いながら、私は笑顔を浮かべる。

「……そういうことなら、私はそろそろ失礼させていただきます」
「ああ、ありがとうございました、リヴェルト様」
「いえ、そもそも私が蒔いた種ですから」
「いいえ、それはお気になさらないでください」

 寝ることを察したからか、リヴェルト様は部屋から出て行こうとしていた。
 そんな彼に、私は改めてお礼を述べておく。彼がいなかったら、私はもしかしたらこの部屋まで戻って来られなかったかもしれない。

「リヴェルト様、お待ちください」
「……はい?」

 そこでリヴェルト様は、足を止めることになった。
 アドールが彼のことを引き止めたのである。まだ何か言いたいことでも、あるのだろうか。
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