妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

47.驚くべき提案

「よかったらリヴェルト様もご一緒しませんか?」
「……はい?」

 リヴェルト様を引き止めたアドールは、何やらおかしなことを言った。
 ご一緒するとは、一体どういうことなのだろうか。その理解が追いつかない。
 彼は、布団を少しまくっている。まさかリヴェルト様もここで眠るように、促しているということなのだろうか。

「ヴェレスタ侯爵、その提案はどういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味です。一緒に寝ませんか?」
「……いや、それは無理です」

 アドールの言葉に、リヴェルト様は首を横に振っていた。
 珍しいことに、かなり焦っているようだ。それはそうだろう。私だって同じ気持ちだ。

「どうして無理なのですか?」
「その……フェレティナ様がいるでしょう」
「フェレティナ様がいると、無理なのですか?」
「ヴェレスタ侯爵も、紳士を志しているならわかるはずです」
「うーん……僕にはよくわかりませんね」

 段々と冷静になってきた私は、アドールの様子がおかしいことに気付いた。
 エメラナ姫に対して、彼は紳士的な対応を心掛けていたはずである。そういった事柄について、何もわかっていないという訳ではないだろう。
 その上で、このような提案をしている。そこには何かしらの意図が、隠されているような気がする。

 そこで私は、ある一つの仮説を思いついていた。
 リヴェルト様のことを、アドールは慕っている。そんな彼からしてみれば、もしかしたら今のリヴェルト様との距離は寂しいものなのかもしれない。

「フェレティナ様、あなたからも何か言っていただきたい」
「リヴェルト様、もしかしたらアドールは呼び方を気にしているのかもしれません」
「呼び方?」
「ヴェレスタ侯爵という呼び方は、なんというか固くありませんか? 距離があるといいますか……」
「距離、ですか?」

 私の言葉に対して、リヴェルト様はアドールの方を見た。
 すると彼は、きょとんとした表情をしている。なんというか、思っていた反応ではない。

「アドール? 私の予測は違っていたのかしら?」
「え? あー、いえ、そうですね。ヴェレスタ侯爵と呼ばれるのは寂しいです」
「しかし、今のあなたの立場は紛れもなくヴェレスタ侯爵です」
「リヴェルト様とは知らない仲という訳でもありませんし、もっと気軽に話していただきたいですね。例えば、お義母様のように」

 アドールは、物欲しそうな目線をリヴェルト様に対して向けていた。
 私の予測は、間違っていなかったということなのだろうか。いまいちわからないが、彼がリヴェルト様からヴェレスタ侯爵と呼ばれることを望んでいないことは、間違いなさそうだ。
 それに対して、リヴェルト様は困った顔をしている。子爵令息である彼かすれば、ヴェレスタ侯爵であるアドールに軽い口を聞く訳には、いかないということだろうか。
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