妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

52.変わらないこと

「実際の所、リヴェルト様はどう思っているんですか?」
「どう思っているか、ですか?」

 私の言葉に、リヴェルト様は少し面食らったような表情を返してきた。
 夕食後二人でワインを飲んでいたのだが、話は当然結婚の話となっている。そこで私は、質問をした。リヴェルト様は、私のアドラス様との離婚などについて、どう思っているのだろうか。

「嬉しくないと言ったら嘘になってしまいますね……やはり、フェレティナ様と結婚できる訳ですから」
「それは私も同じ気持ちです」
「とはいえ、離婚を喜ぶというのも悪趣味なような気もしてしまいますね。相手は故人である訳ですし」

 リヴェルト様も、概ね私と同じような気持ちであるらしい。
 船の事故で亡くなったアドラス様との離婚、それはやはり手放しで喜べるようなことではないと思ってしまう。
 問題行動をしたとはいえ、不幸にも亡くなった彼の死までは喜べる訳ではない。その辺りの線引きに関しては、中々に難しい所である。

「まあ、喜ぶとしたら正式に結婚したからでしょうかね? それこそ、アドールが言っていたようなパーティーはその後ということに」
「そうですね。その時は是非そうしましょう。結婚式などは挙げないつもりですしね」

 アドールはした方が良いと言ってくれたが、私とリヴェルト様との結婚式などはしないつもりだ。
 私の立場は、少々複雑である。そんな私の結婚は、別に大々的に行うべきものでもないのだ。
 ヴェレスタ侯爵家の結婚式は、アドールとエメラナ姫の結婚までお預けである。それがリヴェルト様と話し合って出した結論だ。

「まあ、正直な所、結婚したからといってそこまで劇的な変化が起こるという訳でもないと思うんですよね……」
「そうでしょうか?」
「だって、私達はこれまでほとんど夫婦として過ごしてきたではありませんか。それがそこまで変わるなんてことは、ないと思うのですが」
「なるほど、言われてみればそうかもしれませんね」

 私の言葉に、リヴェルト様はゆっくりと頷いてくれた。
 婚約の話がまとまってから、私と彼とは夫婦同然の生活をしている。その穏やかな生活は、きっとこれからも変わらないはずだ。
 私としては、それでいいと思っている。この平和が、長く続いて欲しいものだ。

「まあ、私達の役目はこれからもアドールのことを支えていくこと、ですからね。私としては、父親として務めていけるかが不安な所ですが……」
「リヴェルト様なら大丈夫ですよ。今まで通りで、何も問題はありません」

 リヴェルト様は、父親という役割について少し緊張しているようだった。
 その気持ちはよくわかる。私もアドールの母となれるか、自信などなかったからだ。
 ただ、きっと大丈夫だ。アドールと向き合いたいという心を、リヴェルト様はしっかりと持っているのだから。
< 52 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop