妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

67.彼の父親は

「フェレティナ、アドール、君達は愚かだ。まさか、ヴェレスタ侯爵を捨てようというのか?」
「捨てる? 勘違いしないでいただきたい。その程度で揺らぐヴェレスタ侯爵家ではないと言っているのです」
「なんだと?」
「あなたのおかげで、苦境には慣れているんですよ。悪評なんて、すぐに覆してみせますよ」
「なっ……!」

 アドラス様に対して、アドールは笑みを浮かべていた。
 その不敵な笑みには、私も思わず笑ってしまう。やはりこの子は、立派なヴェレスタ侯爵になったものだ。
 アドラス様は、明らかにその笑みに押されている。彼の額から冷や汗が流れているのが、その何よりの証拠だ。

「アドール、君は父親に向かって……」
「そのことについて、一言を言いたいことがあるのですが、少しよろしいでしょうか? アドラス様」
「君は……ロナーダ子爵家のリヴェルトか!」

 アドールに対して表情を歪めていたアドラス様の前に、リヴェルト様が立った。
 今まで黙っていた彼だが、その表情には確かな怒りが宿っている。私やアドールに対して不敵な態度を取るアドラス様に、彼も相当頭にきていたのだろう。

「あなたのことを、かつては尊敬している時もありました。父上から話を聞くあなたは、侯爵としてまた父親としても立派だと、思っていましたから……ただどうやら、あなたは最低の男だったようですね」
「な、何?」
「申し訳ないが、あなたの席はもうない。アドールの父親は、この私だ! 文句があるなら、いくらでも聞いてやる。私は、息子を――アドールを守ってみせる」
「……義父上」

 リヴェルト様の言葉に、アドールはとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 目の前にいる立派な父親に、彼はとても感動しているようだ。実の父親であったアドラス様があまりにも不甲斐なかったからだろうか、かなり心にきているように見える。
 もちろん私も嬉しかった。きっとストーレン伯爵も同じ気持ちだろう。アドールの父親が誰であるか、それは明白だ。

「この、知ったような口を――」
「あーあ、悪いな。取り込み中か?」

 アドラス様は、激昂しようとしているようだった。
 しかしそれは止まった。彼の後ろから、声が聞こえてきたからだろう。
 その声には、聞き覚えがない。一体誰だろうか。本人も言っている通り、今は取り込み中であるのだが。

「でも、悪い話ではないと思うんだよ! おーい! 中にいる人に聞こえてないか! あーあ、広い屋敷だし無理か?」
「……この声は」

 ただ、聞き覚えがないのは私達の方だけであるようだ。
 アドラス様は、その声に悲痛な表情を浮かべている。どうやら彼にとって、その声は良いものではないらしい。
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