妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?
68.怪しい男
「お、開いた……?」
アドールが合図を出すと、屋敷の玄関の扉が開いた。
するとそこから、一人の人間がずけずけと入って来る。見るからに柄の悪そうなその男の姿に、私達は困惑してしまう。
ただ、アドラス様は別の反応をしている。彼は明らかに、焦っているのだ。
「いや、すみませんね、取り込み中……といっても、俺の目的はあなた方にとっても悪いことではないと思いますよ」
「……なんですか? あなたは?」
「お坊ちゃん……ああ、あなたがヴェレスタ侯爵か。こんなちっこいのが侯爵様なのか。すごいな」
「……中々に失礼な方のようですね」
男の言葉に対して、アドールは表情を歪めていた。
なんというか、とても軽薄な男だ。とても侯爵家の屋敷に足を踏み入れてもらいたくない。
しかしアドラス様の反応からして、ここは彼を受け入れるべきだろう。場合によっては、私達に利益をもたらしてくれるかもしれない。
「生憎育ちが悪いんですよ。ああ、そんなことよりも、この男を回収していってもいいですかね?」
「この男とは……その男のことですか?」
「ええ、そこで汗を流している男のことです」
軽薄な男は、アドラス様の方を不躾に指差していた。
その柄の悪さから、私はこの男の素性を理解していた。いや、それはアドラス様の反応からも予想できることでもある。
「ボガート、こんな所まで逃げるなんて、お前も中々に大胆だな」
「ゼブウォック……」
「まったく、俺もこんな侯爵家なんて来たくなかったんだがね。こっちにも面子というものがあるんだよ。お前にみすみす逃げられたら、家も名折れだ」
ゼブウォックと呼ばれた男は、アドラス様に対して歪んだ笑みを向けていた。
それにアドラス様は、怯えている。よくわからないが、彼はゼブウォックが属する何かに対して失礼なことをしたのだろうか。
「ま、待ってくれ。金なら返す算段ならついている。前にも言っただろう。僕は、このヴェレスタ侯爵家の前当主アドラスだ」
「ああ、そんなことを言っていたな」
「このヴェレスタ侯爵家の財力を持ってすれば、借りた金以上のものを返すことができる。僕を連れて行くことは得策じゃない」
アドラス様は、いとも簡単にヴェレスタ侯爵家を売っていた。
前当主として、なんとも情けない姿だ。私も思わず、顔を歪めてしまう。
結局の所、アドラス様は自分のことしか考えていないということなのだろう。わかっていたことではあるが、改めて事実を叩きつけられるとやはり気分は悪いものだ。
アドールが合図を出すと、屋敷の玄関の扉が開いた。
するとそこから、一人の人間がずけずけと入って来る。見るからに柄の悪そうなその男の姿に、私達は困惑してしまう。
ただ、アドラス様は別の反応をしている。彼は明らかに、焦っているのだ。
「いや、すみませんね、取り込み中……といっても、俺の目的はあなた方にとっても悪いことではないと思いますよ」
「……なんですか? あなたは?」
「お坊ちゃん……ああ、あなたがヴェレスタ侯爵か。こんなちっこいのが侯爵様なのか。すごいな」
「……中々に失礼な方のようですね」
男の言葉に対して、アドールは表情を歪めていた。
なんというか、とても軽薄な男だ。とても侯爵家の屋敷に足を踏み入れてもらいたくない。
しかしアドラス様の反応からして、ここは彼を受け入れるべきだろう。場合によっては、私達に利益をもたらしてくれるかもしれない。
「生憎育ちが悪いんですよ。ああ、そんなことよりも、この男を回収していってもいいですかね?」
「この男とは……その男のことですか?」
「ええ、そこで汗を流している男のことです」
軽薄な男は、アドラス様の方を不躾に指差していた。
その柄の悪さから、私はこの男の素性を理解していた。いや、それはアドラス様の反応からも予想できることでもある。
「ボガート、こんな所まで逃げるなんて、お前も中々に大胆だな」
「ゼブウォック……」
「まったく、俺もこんな侯爵家なんて来たくなかったんだがね。こっちにも面子というものがあるんだよ。お前にみすみす逃げられたら、家も名折れだ」
ゼブウォックと呼ばれた男は、アドラス様に対して歪んだ笑みを向けていた。
それにアドラス様は、怯えている。よくわからないが、彼はゼブウォックが属する何かに対して失礼なことをしたのだろうか。
「ま、待ってくれ。金なら返す算段ならついている。前にも言っただろう。僕は、このヴェレスタ侯爵家の前当主アドラスだ」
「ああ、そんなことを言っていたな」
「このヴェレスタ侯爵家の財力を持ってすれば、借りた金以上のものを返すことができる。僕を連れて行くことは得策じゃない」
アドラス様は、いとも簡単にヴェレスタ侯爵家を売っていた。
前当主として、なんとも情けない姿だ。私も思わず、顔を歪めてしまう。
結局の所、アドラス様は自分のことしか考えていないということなのだろう。わかっていたことではあるが、改めて事実を叩きつけられるとやはり気分は悪いものだ。