妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

9.港での対面

「これは……」

 港に来た私は、停泊している客船らしきものを見て思わず声を出していた。
 その船は、外国に向かう船であるらしい。この時間にここに来るということは、目的はまずその客船であるだろう。
 ということは、お兄様やアドールが予想していた通りのことを、二人は実行しようとしているのかもしれない。そんな考えが頭を過って、とても嫌な気分になった。

「……フェレティナ、アドール、あれを見ろ」
「あれは……」
「父上!」

 お兄様が指差した先には、船の上で周囲を見渡しているアドラス様がいた。
 それを見たアドールは、駆け出す。先程までとは打って変わって、彼はとても必死な焦ったような顔をしている。
 やはり表面に出ていなかっただけで、内心には色々と思う所があるのだろう。私は、アドールに続いて駆け出す。アドラス様には、色々と言いたいことがあるからだ。

「父上!」
「……なっ」

 アドールの呼びかけに、アドラス様はやっとこちらに気付いた。
 彼は目を丸くして驚いている。まさか私達がこの場に現れるなんて、思ってもいなかったことなのだろう。

「父上、どこに行かれるのですか! こんな船に乗って……」
「……」
「アドラス様! 答えてください! あなたは一体……」
「……」

 私とアドールの呼びかけに、アドラス様は気まずそうな顔をしていた。
 しかし彼は、何も答えてくれない。それ所かゆっくりと体を翻し、私達に背を向けて来る。

「……無駄ですよ、お姉様」
「……あなたは、ヘレーナ!」

 そこで私達の前に現れたのは、妹のヘレーナだった。
 彼女は、何やら勝ち誇ったような表情を浮かべている。それは恐らく、私からアドラス様を奪ったという事実を誇っているということだろう。
 しかし最早、私にとってはこの妹が夫と浮気していたなど些細なことだ。問題となるのは、去った父親がいた所を今も見つけているアドールである。

「ヘレーナ、あなた……アドラス様は、一体どういうつもりなの?」
「どういうつもりも何もありませんよ。私達は愛し合っているんです。でも、私達が結ばれるためには障害が多いですからね。別の国でやり直すんです」

 ヘレーナは恍惚とした表情を浮かべながら、私の質問に答えた。
 その答えに、私は息を詰まらせる。恐れていたことが現実となってしまった。アドラス様は本当に、アドールを残してこの妹と行くつもりなのだ。

 それはなんと非道なことなのだろうか。アドラス様は、最低の人間だ。
 そのことを嬉々として語るヘレーナも同じである。この二人は一体、どこまで外道なのだろうか。
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