恋をしたのは姉の夫だった人

思いがけない告白

 最近繰り返し繰り返し夢がある。

 それは八年前に亡くなった姉と、実家の縁側に座って話をしている夢だ。
だが、何を話していたのかは、朝になるといつも忘れてしまっている。
ただ、姉が涙を浮かべて何かを訴えていることだけは覚えている。


――ジリリリリリリリ。


 朝を知らせるけたたましくなるアラームの音で目が覚め、目覚ましのスイッチをオフにし、体をゆっくりと起こした。

「また同じ夢だ……」

 目の端に残る涙を手の甲で拭う。
しばらくベッドに座ったまま、見慣れた1DKの部屋をぼんやりと眺める。
出勤時間まではじゅうぶん時間はあるので、急ぐこともない。
何事にもゆとりを持って動きたいタイプであるので、七時に家を出るがいつも五時起き。

 二月上旬とまだまだ寒い季節。
室内はキンと冷え、鼻が冷たさでツンとしてきた頃にようやく暖房を付け、ベッドから抜け出した。
ぬるま湯でしっかり洗顔し、たっぷりと顔に保湿液を染み込ませ、悲しい夢を追い出すように、手のひらで頬をパンパンと叩く。
それから半年間料理教室に通いみっちり鍛えた調理力を発揮し、約二十分ほどで弁当を作った後、朝食を簡単にすませる。

 後片付けを終え、歯を磨いた後は鏡と向き合う時間である。
メイクをしなければ学生に間違えられてしまうほどの童顔を隠すように、たれ目がちの大きな目にアイライナーを上向きに引くのがこだわりで、桃色の口紅をグロスと混ぜてぽってりとした唇に乗せる。
ドレッサーの鏡の中の自分に笑いかけた。

「今日も頑張ろう」

  柊木優(ひいらぎゆう)
27歳、独身。

 優は製薬会社の受付嬢という一見華やかな仕事をしている。
しかし、そろそろ会社は若い子を求めているような感じがして、最近は周囲に気を遣うばかり。
一人暮らしなので滅多に声を上げないが、毎朝自分を奮い立てるために、そう口にするのが日課であるのだ。
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