恋をしたのは姉の夫だった人
 瑞樹には急がなくてもよいと言われたけれど、早く心に会いに行きたい優は、急ぎ足で帰ろうと決めていた。
会社を出て駅まで急ごうとした優だったが、横から「優」と、声を掛けられ足を止める。
声の主は昼間に思い出したばかりの朝陽。

「朝陽……」

 突然の再会に驚きで目を丸くしていると、朝陽は小さく笑みを浮かべた。

「なんでここに……」

 朝陽は優の職場を知らないはずだ。
お互いの共通の知り合いはいるものの、二人が破局したことで優に気遣った友人たちは、朝陽や彼周辺の者たちと連絡を取り合うのをやめた。
そのため、優も朝陽の状況など一切知らない。

「優、久しぶりだな」

「……そうだね」

 久しぶりの朝陽の姿に、胸が懐かしさからギュッと締まる。
一ハ十センチまであと三センチなのにと悔しがっていた身長は、記憶通り高いまま。
よく食べるくせにスマートなスタイルも変わらない。
随分会っていなかったのに、彼のことは一瞬で思い出せるから不思議だ。

「優は大人になったな」

 朝陽は優と正反対のキリッとした切れ長の目を細めて笑う。
それを言うのであれば、彼の方だ。
顔のパーツは変わらないのに、一つ一つがしっかりとし、凛々しい顔つきになっている。
固くてごわつくと毎朝彼を苛立たせていた髪は、社会人らしく後ろに軽くワックスで撫で付けられていて、オシャレに気を遣っているのがわかる。
黒のスーツはちゃんと似合っていて、もうすっかり大人の男だった。

「朝陽こそ大人だね」

 優は記憶の中の彼と比べて、小さく笑った。
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