恋をしたのは姉の夫だった人
 朝陽もつられて笑い返す。

「突然どうしたの?」

 会社の前で声を掛けてきたということは、優を待ち伏せしたと思って間違いないだろう。
彼女は朝陽の顔を上目遣いに見つめた。

「うん……」

 言いにくそうに目を伏せる朝陽。

「何かあった?」

 優はほんの少し穏やかな口調を意識して尋ねると、彼は意を決したような顔をして、足を一歩前に進めて優との距離を縮めた。
彼から柑橘系の爽やかな香りが優しく漂う。
昔は何もつけていなかったというのに、やはり大人になったのだなとしんみりした。

「俺さ……」

「どうしたの?困ったことでもあった?」

 なんだか困っているようにも見えて、心配そうな目つきで朝陽を見つめる優。

「優にずっと会いたくてたまらなかったんだ」

 優は予想外の台詞にえ……と、目を丸くした。

「優がここに勤めていることは前から知ってたんだけど……」

 朝陽は気まずそうに顔を歪めながら、肩を竦めた。

「そうなんだ……」

「うん。俺は今、ミタチで働いてるからここの前をよく通ってるんだ。はじめて優を見たのはもう二年前になる」

「そんなに前から知ってたんだ……」

 驚いて言うと、彼はちょっと切ない目をして笑った。
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