恋をしたのは姉の夫だった人
 ミタチとは医療用電子機器企業。
医療機器メーカーの売り上げはここ数年間ミタチがトップと聞く。
海外にも進出している大手で、会社は瑞樹の薬局のすぐ側にありUPHからも近い。
二人は過去、同じ大学を目指していた頃もあって、結局別れたので優は女子大に進むことに決め、彼の進んだ先はまったく知らないが、しっかりとした職に就くために努力したのだなと密かに思う。

「声を掛けてくれたらよかったのに……」

 二年も前から知っていたなんて驚きだ。
もしかするとすれ違っていた可能性だってあるのだと思うと不思議な感じがした。

「……簡単にそれができたら二年もかかってないよ。あんな別れ方したんだ……」

 優の心は、一気にあの頃に戻る。
彼と過ごしたキラキラとした日々。
それから突然終わりを迎えたあの日の苦しみ。
優はというと、随分朝陽のことをひきずっていて、恋愛はもういいやとしばらく恋をしなかった。
好意を向けられることもあったけれど、彼ほど好きになれず断っていたのだ。

「もう何年も前じゃない、大丈夫だよ」

 それでも、それは過去の話。
今も朝陽に囚われているはずはない。
現在は、心のことなどで頭はいっぱい。

「何年も前って……そうだよな」

 彼は悲しそうに笑って目を伏せた。

「そうだよ、あの頃は悲しくてたまらなかったけど、もう私も大人になったし大丈夫だよ」

 優はなるべく明るく言って笑ってみせる。
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