恋をしたのは姉の夫だった人
 瑞樹はそのまま優をソファに掛けさせるが、触れられた肩が熱い。

「なかなか今夜は上手くできたと思うんだ。心が張り切ってるから二人の傑作を楽しみにしていて」

 近い距離で微笑まれたなら優は頷くことしかできない。
はいと、素直に答えて、コートを脱ぎソファに体を沈めた。

「あ、そうだ。優ちゃん、ちょっと寒くなるけどごめんね。ベランダに出るよ」

 しばらくして瑞樹はリビングの大きな窓を開けベランダに出る。
冷たい風が温かい部屋に吹き込んできたが、すぐに彼は窓を閉めた。
十三階建てのマンションの十階というそこそこ上階にあるこの部屋は、ファミリーに適した3SLDkの間取りで、ベランダは小さなビニールプールが置けるくらいの広さがある。
心がもっと小さな頃は水遊びをして遊ばせたが、今では少量の野菜や花を育てているのだ。
瑞樹の様子が気になってしまいベランダの前まで移動し少しだけ窓を開け外を覗くと、彼はプランターの前で屈んでいた。

「何か咲いたんですか?」 

 瑞樹が優を見上げ、目を優しく細めた。

「うん。優ちゃんに食べさせたいって心が言ってね、ほらこれ見て」

 瑞樹は形の悪いブツブツが多い苺を優の手に乗せる。

「苺、またできたんですね、すごい!」

「そうそう、毎回忘れた頃にできるから面白いよね」

 この苺の苗は心が幼稚園の頃に園から持ってきたもので、気が向いた時に実をつける気まぐれ屋だ。
瑞樹はいくつか苺をちぎって部屋へ戻る。

「心もさっき食べたけど苺美味しかったよ。優ちゃんも食べてみて」

「うん、いただくね」

 瑞樹には「今、洗ってくるからちょっと待ってて」と言われたけれど、優も瑞樹に続きキッチンへ付いていく。
< 15 / 41 >

この作品をシェア

pagetop