恋をしたのは姉の夫だった人
 心は踏み台に立ち、IHコンロの前で鍋の中を菜箸でつついていた。
スープのぐつぐつと茹る音が出汁のよい香りと共に届き、食欲をそそる。

「優ちゃん、見て見て!美味しそうでしょう?」

 優はどれどれと心の後ろに回り、邪魔しないように鍋を覗く。
中の具材などはすっかり柔らかくなって美味しそうだ。
ちょっと不格好の十字の入ったしいたけに、同じく不格好の花の形の人参と大根が目に入る。
きっと二人で一生懸命作ったのだろうと思うと、ほっこりした気持ちになる。

「うん、美味しそうだね」

「味見する?」

「いいの?嬉しいな」

 優が心の誘いに頷いた時、瑞樹が横から「優ちゃんはまずこっちね」と言って、彼女に苺を近付けた。
反射的に優の口が開く。
そのタイミングで口の中に苺が転がり込んできた。
瑞樹の少し冷たい指先が、唇の端に当たる。

「どう?美味しい?」

 瑞樹は優しく微笑んで答えを待つ。
正直なところ胸がとてもドキドキしていて、味なんてわからない。

「……美味しいです」

 めちゃくちゃ嘘だった。
瑞樹にとっては何でもない行為だろうが、優の心は大変だ。
口の端がひどく熱い。

「よかった」

「よかったね、パパ。優ちゃんに食べてもらえて」

「そうだね」

 二人がニコニコと笑っているので、優もなんとか笑みを作る。
胸のドキドキを逃がすために軽く深呼吸をしながら。
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